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日外会誌. 87(10): 1293-1302, 1986


原著

血行動態からみた肝切除後の急性胃病変の発生機序および Prostaglandin I2とH2受容体拮抗剤の効果について

京都大学 医学部第1外科学教室(指導:戸部隆吉教授)

記井 英治

(昭和60年12月23日受付)

I.内容要旨
肝切除後に発生頻度の高い急性胃病変の原因について家兎の肝切除モデルを用い,血流動態面から検討を加え,さらに同モデルにおける脱血後の胃,膵血流に対するPGI2およびH2受容体拮抗剤の効果を検討した.
肝切除家兎にGRP 0.5μg/kgを静注した場合,GRPに対する膵血流反応は正常家兎と同様に増加したのに対し,胃血流反応は有意に低下した.
肝切除家兎に循環血流量の10%の脱血を行うと大腿動脈血流は脱血前値の76%までの減少に留つたのに対し,胃,膵血流はそれぞれ脱血前値の55%,57%まで大きく減少した.その後,膵血流は脱血60分後には脱血前値の81%まで回復するのに対し,胃血流では脱血後60分間にはほとんど回復はみられなかつた.一方,脱血の30分前よりPGI2(30μg/kg-hr)またはH2受容体拮抗剤であるranitidine(5mg/kg-hr)を持続静注すると脱血直後の胃血流はcontrolと同様に低下したが,60分後には脱血前値に対しPGI2群80%,ranitidine群72%といずれもcontrol群の59%に比し良好な血流回復を示した.
このように肝切除後の胃における血流反応機能の低下や,脱血時の血流低下の遷延にみられるような防御作用の障害が急性胃病変の発生原因と考えられた.また,PGI2およびH2受容体拮抗剤が肝切除家兎において脱血による胃血流低下の遷延を特異的に防止することから,肝切除後の胃病変の予防,治療に有用と考えられた.

キーワード
肝切除, 急性胃病変, 胃・膵血流, prostaglandin I2 (PGI2), H2受容体拮抗剤


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