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日外会誌. 87(5): 558-563, 1986


原著

術後に甲状腺癌と診断された甲状腺結節の検討

名古屋大学 医学部第1外科

辻󠄀 祥孝 , 鳥本 雄二 , 大山 正夫 , 樋口 耕造 , 堀 明洋 , 二村 雄次 , 塩野谷 恵彦

(昭和60年7月1日受付)

I.内容要旨
甲状腺結節219例を分析し,術前,術中に良性と診断し,術後の病理組織学的検索で甲状腺分化癌(以下甲状腺癌)と診断された症例の病理組織学的特徴および治療法,予後につき検討し,これらの症例の取扱いの指針を得ることを目的とした.術前診断は触診を基本とし,頸部軟X線撮影,針生検,シンチグラフィー,甲状腺リンパ造影などによつて行つた.
術前診断が良性結節性甲状腺腫であつた137例中12例が術後に甲状腺癌と診断された.この12例を対象として,その切除標本を病理組織学的に検討し,主病変の腫瘤自体が甲状腺癌であつた4例を「甲状腺癌症例」,主病変の腫瘤自体は良性であったが,他に微小な甲状腺癌の合併をみた8例を「甲状腺癌合併症例」とした.この両群につき,臨床病理学的特徴よりみた生物学的特性,予後の評価よりみた適切な治療法,さらに甲状腺結節の手術術式に対しても検討を加えた.甲状腺癌症例では腫瘤は結合織性被膜に包まれ間質の結合織が少なく軟らかく触れた.甲状腺癌合併症例では癌病変の腫瘍最大径は3mm~15mmであつた.全例とも術中にリンパ節腫脹は認めていない.手術は,1例に核出術を行い,癌と判明後に再手術として左葉切除を行つた.他の11例では8例に葉切除,2例に葉切除+対側葉部分切除,1例に亜全摘を行つたが再手術は行つていない.全例ともリンパ節郭清は行っていない.1例は他病死したが他の11例は3年より11年健在で再発の徴候はない.
術前,術中に良性と診断し,術後検索で甲状腺癌と診断されるような症例は浸潤増殖傾向に乏しく,微小な癌が多く,良好な予後が期待できると結論された.術前,術中に良性と診断しても葉切除を行うべきであると考えられ,病変を完全に摘除してあれば,すぐに再手術を行う必要はないと考える.

キーワード
甲状腺結節, 甲状腺分化癌, 被包性甲状腺分化癌, 甲状腺微小癌


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