[書誌情報] [全文PDF] (4325KB) [会員限定・要二段階認証]

日外会誌. 87(4): 443-449, 1986


原著

急性及び慢性三尖弁狭窄犬の実験的研究

鹿児島大学 医学部第2外科

森下 靖雄 , 有川 和宏 , 大園 博文 , 下川 新二 , 東 哲秋 , 帖佐 信行 , 平 明

(昭和60年7月3日受付)

I.内容要旨
Tricuspid stenosis(TS)犬を作成し,その血行動態変動及び右心不全症状を急性(I群)および慢性実験(II群)により評価した.
雑種成犬の体血圧(SAP),中心静脈圧(CVP),心拍出量(CO),右房圧(RAP),左房圧(LAP)及び三尖弁(T)弁口での拡張期圧較差(RA-RV圧較差)の対照値測定後RAPがLAPの1.5倍になるようにTSを作成した.I群(13頭)は2時間後屠殺し同時に胸・腹水の有無,肝・脾の重量及び組織学的検索を行った.対照値としてのRAP,LAPはそれぞれ2.9±0.4mmHg(Mean±SEM),4.1± 0.6mmHgで,RAP/LAP=0.71であつた.TS作成後のRAP,LAPはそれぞれ6.0±0.7mmHg,3.9±0.4mmHgとなり,RAP/LAP=1.54で,RA-RV圧較差は3.7±0.7mmHgであつた.TS作成直後の血行動態は悪化したが,大量輸液でTS作成前に復した.TS作成前後のT弁弁口面積はそれぞれ8.2±0.3cm2,1.0±0.1cm2であつた.II群でのTS犬の2ヵ月後のRA-RV圧較差は1.8±0.2 mmHg,T弁弁口面積は1.6±0.3cm2であつた.T弁弁口は癒着しそれからTS作成前の弁口面積は求められなかつたが,I群でTS作成前に測定した上・下大静脈の断面積の和と正常T弁弁口面積間にみられた相関関係(y=0.57x-1.35,r=0.889)をあてはめて推測したTS作成前のT弁弁口面積は7.6 cm2であつた.胸・腹水はみられなかつたが,肝・脾は腫大し,対照との重量比はそれぞれ138±21%,121±19%であつた.組織学的所見と重量増加との間に相関関係はなかつた.
以上より,1)腹腔臓器血管床は右心系の量負荷及び圧上昇を調節するようにたくみに働いていることが示唆された.2)正常T弁弁口面積の1/8の狭窄でRA-RV圧較差は3.7±0.4mmHg(I群),1/5で 1.8±0.2mmHg(II群)で,T弁圧較差はTSの程度をある程度反映した.3)犬での正常T弁弁口面積は上・下大静脈断面面積の和より推測し得た.

キーワード
三尖弁狭窄, 三尖弁弁口拡張期圧較差, 右心不全, 腹腔臓器血管床の調節作用


<< 前の論文へ次の論文へ >>

PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。