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日外会誌. 87(4): 365-374, 1986


原著

抗悪性腫瘍関連抗原モノクローナル抗体結合,抗癌剤封入リポソームの選択的抗腫瘍効果増強に関する基礎的研究

慶応義塾大学 医学部外科学教室(指導 阿部令彦教授)

今野 弘之

(昭和60年7月5日受付)

I.内容要旨
抗癌剤の効果増強策として選択的腫瘍到達性をめざして,人工脂質膜小胞であるリポソームに adriamycin(ADM)を封入し,抗ヒトα-fetoprotein(AFP)モノクロ一ナル抗体(19-F-12,免疫グ ロブリンIgG 2b;以下MoAb(AFP)と略す)または,抗ヒトcarcinoembryonic antigen(CEA) モノクローナル抗体(1-C-11,IgG1;MoAb(CEA))をリポソーム表面に結合させた結合体(以下それぞれLip-ADM=Ab(AFP),およびLip-ADM=Ab(CEA)と略す)を作製した.フルオレッセィンをリポソームに封入し,それぞれのMoAbを結合させ,AFP産生性ヒト肝癌細胞株PLC,CEA産生性ヒト大腸癌細胞株C-1を標的細胞として結合試験をおこない.MoAb(AFP)結合リポソームは PLCと,MoAb(CEA)結合リポソームはC-1と特異的に結合することが観察された.in vitroの細胞傷害試験においては,Lip-ADM=Ab(AFP)はPLCに対して,Lip-ADM=Ab(CEA)はC-1に 対して,MoAb非結合リポソームに比し,強い細胞傷害性を示した.in vivoにおいてはヌードマウス継代移植腫瘍であるAFP産生性ヒト肝癌株Li-7,CEA産生性ヒト大腸癌株Co-4を標的株として,結合体の腫瘍増殖抑制効果について検討した.Lip-ADM=Ab(AFP)はLi-7に対して,また,Lip- ADM=Ab(CEA)はCo-4に対して,それぞれMoAb非結合ADM封入リポソームおよびADM単独よりも,強い腫瘍増殖抑制効果を示した.Li-7についての組織学的検討において,Lip-ADM=Ab (AFP)投与群では,癌細胞の破壊と共に,癌胞巣の破壊も認められ,他の投与群と比較し,明らかに組織学的にも制癌効果が大きかつた.
MoAb,封入抗癌剤,細網内皮系による捕捉,リポソームの構成成分など,今後検討すべき点が残されているが,MoAb結合抗癌剤封入リポソームは,癌に対する“ミサイル療法”のために有用と考えられた.

キーワード
アドリアマイシン封入リポソーム, モノクローナル抗体結合リポソーム, ミサイル療法, リポソーム, モノクローナル抗体


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