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日外会誌. 87(3): 254-265, 1986


原著

温熱療法時における併用制癌剤の癌細胞内取り込みに関する基礎的研究
-5-FU のEhrlich 癌細胞内取り込みにおよぼす in vitro および in vivo 加温の影響-

鳥取大学 医学部第1外科学教室(主任:古賀成昌教授)

山根 歳章

(昭和60年3月1日受付)

I.内容要旨
温熱化学療法は癌に対する集学治療の一環として,臨床に導入されつつある.この温熱化学療法における制癌剤の動態,ことに制癌剤の癌細胞内あるいは腫瘍組織到達性は,加温による腫瘍組織内血流量の変化や,癌細胞膜透過性の変化により,通常の環境下での制癌剤投与時とは異なるであろうことが予測される.一般に,癌細胞や腫瘍組織への制癌剤の到達性は,制癌効果に大きく影響をおよぼすことが知られているが,温熱化学療法におけるこの点の検討はほとんどなされていない.そこで,制癌剤の癌細胞および腫瘍組織内到達性におよぼす加温の影響について,Ehrlich腹水癌細胞(E細胞),ddyマウス,およびトリチウムでラベルした5-fluorouracil(3H-5-FU)を用いて検討を加えた.すなわち,3H-5-FUを添加したE細胞浮遊液を種々の温度でin vitro加温し,E細胞への5-FU取り込みを経時的に観察した.同時にE細胞移植マウスに3H-5-FUを投与後,種々の温度の局所加温ならびに全身加温を施し,腫瘍組織内への5-FU取り込みを経時的に測定した.E細胞および腫瘍組織内への 5-FU取り込みは,それぞれのトリチウムの定量およびautoradiographs所見により検討された.その結果は以下に要約できる.
1.E細胞のin vitro加温では,43℃,30分,60分において,E細胞の有意な5-FU取り込み亢進がみられ,autoradiographsでも同様の所見が確認された.この所見は正常細胞にはみられず,癌細胞に特徴的であつた.
2.担癌マウスの局所加温(42℃)および全身加温(42℃)では,30分,60分において腫瘍組織内への有意な5-FU取り込み亢進がみられ,同様の所見がautoradiographsで確認された.これらの所見は,正常組織にはみられず,腫瘍組織に特徴的所見であつた.
以上の結果は,加温による制癌剤の癌細胞,腫瘍組織内到達性の向上を示すもので,温熱療法における併用化学療法の抗腫瘍性増強が示唆された.

キーワード
温熱化学療法, Ehrlich 癌細胞, 5-FU の癌細胞内取り込み, autoradiography

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