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日外会誌. 87(1): 111-117, 1986


症例報告

血管吻合による尾側80%膵自家移植術の経験
-慢性膵炎に対する外科治療として-

島根医科大学 第1外科

田村 勝洋 , 金 聲根 , 小野 恵司 , 樽見 隆雄 , 中川 正久 , 中瀬 明

(昭和60年3月19日受付)

I.内容要旨
慢性膵炎症例に対し,血管吻合による尾側80%膵自家移植術に成功した.患者は51歳男性で10年来のアルコール性慢性膵炎で増悪する疼痛と糖尿病のため入退院を繰り返した.当科入院時,肝胆道系に異常なく,膵体尾部にびまん性石灰化の著明な慢性膵炎で膵管は体部で一部拡張を認めた.膵機能面では75gOGTTの血糖曲線は糖尿病型,C-peptide immunoreactiviry(以下CPR)は低反応で,すでに1日20単位のインスリン治療を必要とし,PFD試験では63.2%であつた.昭和59年12月13日以下の手術を施行した.門脈右側線上で膵を横断し,頭側断端は閉鎖した.摘脾し,膵尾部で血栓予防のためのA-V shuntを形成した後,脾動静脈を根部で切断して尾側80%膵切除を行つた.移植操作の血管吻合は静脈より行ない,脾静脈,右外腸骨静脈端側吻合ついで脾動脈,右内腸骨動脈端々吻合を行つた.この時,静脈吻合口を広くとる目的で吻合部腸骨静脈壁を5mm幅で切除,吻合した.脾動脈切断直後から血管吻合終了時までアルブミン,ガベキセートメシレートを含む4℃ヘパリン加乳酸リンゲル液にて脾動脈より灌流した.膵虚血時間は54分であつた.膵断端は回腸と端々吻合し,回腸はRoux-en-Y吻合で再建した.移植膵は右腸骨窩側壁腹膜下に埋没した.術後,血栓症は発症せず,術後1カ月の血管造影では移植膵の血流はよく保たれ,生着が確認できた.術後1カ月の75gOGTTでは右腸骨静脈でのCPR反応が末梢静脈のそれよりも高く,PFD試験では78.8%で,移植膵が機能していることが確認できた.術後3カ月の現在,上腹部,移植部ともに疼痛はまつたくなく,インスリン治療は1日12単位でよくコントロールされている.本症例は組織学的に末梢小膵管内に多数の石灰化protein plugが証明され,主膵管の減圧のみでは無意味であり,膵切除と移植膵の完全なdenervationに加えて膵機能温存が可能である本手術は極めて有効であつた.

キーワード
慢性膵炎, 膵自家移植


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