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日外会誌. 87(1): 84-89, 1986


原著

肺悪性腫瘍に対する気管支形成術の評価と問題点

東北大学抗酸菌病研究所 外科

藤村 重文 , 今井 督 , 近藤 丘 , 半田 政志 , 山内 篤 , 岡部 健 , 仲田 祐

(昭和60年3月27日受付)

I.内容要旨
これまで経験した肺悪性腫瘍に対する気管支形成術を伴つた手術58例を対象として,それらの手術成績を検討し,気管支形成術に関連した合併症防止に関して考察した.
5年生存率は,症例全体としては36.9%,肺癌のI期およびII期症例で66.6%,III期症例では7.9%であつた.これらの症例のなかには腺癌は7例と少なかつたが,腺癌では術後5年生存はなかつた.扁平上皮癌症例の5年生存率は45.9%で,I期およびII期で75.6%,III期では10.5%であつた.これらの成績は,肺癌に対する標準的肺切除術の予後と大差なく,気管支形成術を伴なつた肺切除術は,肺癌に対する術式として十分評価できるものである.しかしながら,肺動脈形式を伴なう気管支形成術は,9例中7例が術後2年7月以内に癌死しており,本術式よりはむしろ肺剔除の方が適応となるものと考えられた.
気管分岐部形成あるいは気管分岐部切除+気管・気管支吻合を行なつた肺癌8例をみると,左肺剔除を行なつて気管分岐部切除+気管・気管支吻合を加えた2例が術後3月および1年3月生存中であるが,残りの6例は,術後3年以内に死亡した.4例には,術後吻合部に癌再発がみられた.
気管支形成に関連した合併症のうち,術後吻合部における癌再発は8例にみられ,気管分岐部手術におけると同様に,気管支形成を伴なう葉切に際しても,気管支の切除範囲をできるだけ広範囲にとつて吻合すると共に,術後剔出肺の気管支断端部の組織学的検査により癌の気管支組織への進展がみられたものに対しては術後照射を加える必要があると考えられた.気管支吻合部の癌再発症例の検討から,術中の断端部の迅速組織診は重要ではあるが,少量の癌細胞遺残や,気管支外組織中の癌組織の検索に際しては限界があることが示された.

キーワード
肺癌, 気管支形成術, 肺動脈形成術+気管支形成術, 気管分岐部手術, 気管支吻合部癌再発


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