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日外会誌. 87(1): 79-83, 1986


原著

甲状腺分化癌の肺転移に関する臨床的検討
-特に初診時肺転移の有無による臨床像の相違について-

伊藤病院 
*) 東京都済生会中央病院 外科

尾崎 修武 , 伊藤 國彦 , 眞鍋 嘉尚 , 西川 義彦 , 三村 孝*)

(昭和60年2月20日受付)

I.内容要旨
甲状腺分化癌といえども,一旦遠隔転移をおこすと予後は決して楽観できない.しかし,現時点ではどのような症例が遠隔転移をおこすかを予測することは極めてむつかしい.
伊藤病院では過去32年間に,甲状腺分化癌初回手術症例のうち70例の肺転移例を経験しているが,肺転移が初診時にすでに認められるものと,初診時には認められなくて甲状腺の手術後に出現するものとがあり,それらのover-allの予後を調べたところ,前者の方が良好であるという意外な結果が得られた.そこで,初診時に肺転移が認められる症例と,甲状腺の手術後に出現してくる症例との間に臨床像に差があるか否かについて検討した.
1)肺転移が初診時に認められる症例(M1症例)では,85.7%の症例が生存していたのに対して,甲状腺の手術後に肺転移が出現した症例(M0症例)の生存は42.9%で,p<0.001で有意にM1症例で生存例の割合が大きかつた.
2)M1症例は,M0症例に比べて,男性の割合がより多く,平均年齢は有意に若かつた.また濾胞癌の占める割合は両者間に差がなかったが,M1症例に乳頭濾胞癌が多かつた.さらに,M1症例の方がRI治療の有効例が多かつた.
3)胸部X線写真上の肺転移巣の型,および手術中の肉眼所見の上で,M1症例とM0症例との間に有意な相違はみられなかつた.
以上から,若年者の,肺転移を有する甲状腺分化癌は高齢者のそれとは異なり,初診時にすでに肺転移を有するものと,甲状腺の手術後に出現するものとでは,生物学的特性の上で相違があることが示唆された.

キーワード
甲状腺分化癌, 肺転移


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