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日外会誌. 87(1): 29-43, 1986


原著

食道静脈瘤直達手術後早期の胃血行動態変化からみた出血性胃炎の成因に関する臨床的研究

久留米大学 医学部第1外科(主任:掛川暉夫教授)

佐谷 博俊

(昭和60年1月14日受付)

I.内容要旨
最近,食道静脈瘤の外科治療後において出血性胃炎の発生が注目されているが,本症発生に関する病態の解明はこれまで殆んどなされていない.そこで著者は直達手術後早期にみられる本症の成因を直達手術の手術侵襲が及ぼす胃血行動態変化に基ずくものと考え,今回水素ガスクリアランス法による胃組織血流の測定と組織酸素分圧(PtO2)測定による検索を行い,同時に全身血行動態も含めて赤血球を介した組織への酸素需給能からも合わせて検索を行つてみた.肝硬変性食道静脈瘤(門亢症群)の術中,術後にわたる胃上部血行動態の検索結果,胃上部粘膜血流は血行遮断術後,比較的早期より回復傾向を認めたのに対して,胃上部筋層PtO2は逆に漸次低下を示し,両者間には矛盾した解離現象が認められた.この術後のPtO2低下の成因として,全身血行動態面からの検索結果,胃上部領域の(AV)shunt流量の術後増大が推察され,また赤血球酸素需給能からの検索からは赤血球酸素解離曲線の術後著明な左方推移や赤血球内2,3-DPGの大幅な低下とその回復遷延によることが考えられた.一方,門亢症群の術後4週目に行つた胃内視鏡所見では胃上部領域の粘膜には軽度の萎縮性変化が観察されたに過ぎなかつた.以上の結果より,門亢症群の胃上部組織に及ぼす直達手術の影響は血流量の面からはさほど大きな侵襲は認められなかつたのに対し,組織への酸素供給面からは術後shunt流量の増大や2,3-DPGの大幅な低下に基ずくanoxiaの状態となつており,これらが術後早期にみられる出血性胃炎の発生因子の1つとして関与しているものと考えられた.

キーワード
食道静脈瘤直達手術, 出血性胃炎, 水素ガスクリアランス法, 赤血球酸素解離曲線, 2, 3-DPG


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