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日外会誌. 87(1): 20-28, 1986


原著

男性消化器癌におけるヒト絨毛性ゴナドトロピン様物質の検討

千葉大学 医学部第1外科(主任:奥井勝二教授)

大山 欣昭

(昭和60年8月1日受付)

I.内容要旨
種々の癌関連抗原が報告されているが消化器癌の補助診断に有用な抗原は少ない.human chorionic gonadotropin(hCG)が胎生初期より出現することに着目し,α-fetoprotein(AFP),CEAのように悪性化した成人消化器癌組織に胎児胎盤共通抗原として出現する可能性を想定し,血中および組織中のhCGを二抗体法RIAを用いて測定し,同時に癌胎児性抗原として普遍化されている抗原であるCEAとの比較を行つた.
1)血中のhCG類似物質(human chorionic gonadotropin like substance-hCGLS)の陽性率は,早期胃癌6/8(75%),胃癌切除可能症例14/22(63.7%),切除不能症例4/10(40%)であり,大腸癌切除可能症例は10.13(76.7%)である.対照である消化性潰瘍および健常者では全例陰性であつた.一方本来のhCG活性を有するhCGβ-subunitは上記消化器癌症例中高値を示す症例は少なかつたので,hCGLSはホルモン活性を有するhCGではないかと考えられた.2)癌組織内hCGLS値は正常粘膜内hCGLS値に比し胃癌(p<0.02),大腸癌(p<0.01)で有意高値を示した.3)血中,癌組織内hCGLS値は組織の分化度が進んでいる程高い傾向を示した.4)癌組織内hCGLS値と腫瘍の大きさとの関係は,胃癌では相関が見られなかつたが,大腸癌ではr=-0.637(p<0.05)で負の相関を示した.5)高値を示した3例を除いて癌組織内β-hCG値は正常粘膜内β-hCG値と有意差を認めず,hCGLSとの相関も見られなかつた.6)癌組織内CEA値は胃・大腸癌とも正常粘膜内に比し有意高値を示し,胃癌ではhCGLSとの相関は見られなかつたが,大腸癌ではr=0.751(p<0.05)で相関が認められた.以上よりhCGLSは男性消化器癌組織より産生されて血中に遊出する示唆が得られ,補助診断として有用であると考えられた.

キーワード
hCG 様物質, β-subunit hCG, 組織内 CEA, 腫瘍関連抗原

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