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日外会誌. 86(6): 657-668, 1985


原著

外科領域における尿中N-acetyl-β-D-glucosaminidase 活性の臨床的意義

福島県立医科大学 第1外科学教室(指導:元木良一教授)

神岡 斗志夫

(昭和59年9月26日受付)

I.内容要旨
尿中N-acetyl-β-D-glucosaminidase(以下NAG)活性値は腎尿細管上皮の障害を鋭敏に反映して上昇する.そこで外科的治療をうけた62症例につき,術前術後にわたり,尿中NAG活性値を測定し次の結果を得た.
1)術前値は,待期手術例9.53±8.63IU/day,緊急手術・試験開腹例31.39±23.47IU/dayで報告されている健常者値(10IU/day以下)に比して高値を示した.
2)合併症なく良好な経過をとつた症例でも術後は上昇する傾向がみられ腎尿細管上皮に対する障害が示唆された.軽度侵襲群では50IU/day未満,高度侵襲群では100IU/day未満で推移したが,試験開腹群では半数が100IU/day以上を呈していた.
3)合併症を併発した症例ではより高度の腎尿細管上皮障害が示唆され,感染を主とした循環良好群では,9例中5例が100IU/day以上となり,各種ショックが合併した10例中6例が100IU/day以上に上昇した.
4)BUN,S-Cr,U-protein,UUN/BUN,FENa,Ccr,CH2Oなどの他の腎機能パラメーターとの関係をみると一般に尿中NAG活性値異常上昇例では他の腎機能パラメーターはほぼ正常範囲内にあり,一方,他の腎機能パラメーターが異常値を示している例では尿中NAG活性値は必ずしも異常上昇を示さなかつた.
5)尿中NAG活性高値にCH2O,Ccrの異常を伴つた症例は急性腎不全に陥つた.しかし,急性腎不全の極期では尿中NAG活性値は上昇せず,急性腎不全より回腹すると上昇,以後は漸減して正常値に復帰する傾向がみられた.
6)尿中NAG活性値を術後急性腎不全の早期発見の目的に使用する場合には50IU/day以上,とくに100IU/day以上上昇時には要注意とし,CH2O,Ccrを測定,これらに異常があれば急性腎不全の可能性が高いと判定すべきであると考えられた.

キーワード
N-acetyl-β-D-glucosaminidase (NAG), 術後急性腎不全, 手術侵襲, 術後合併症

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