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日外会誌. 86(4): 489-506, 1985


原著

心刺激伝導系の術中指標に関する組織学的研究
特に周辺構造物について

高知医科大学 第2外科

田宮 達男 , 山城 敏行

(昭和59年8月7日受付)

I.内容要旨
開心術起因の刺激伝導障害防止法確立の一環として,正常心4,各種奇形心25,計29例の病理標本を用い,伝導系走行とその外科的指標について組織学的に検索し,次の結果をえた.用語は原則的にAndersonらによつたが,medial papillary complexとaccessory papillary muscles(AcPMs)については,一定の条件を付し,かつ細区分化して,位置明示を図つた.
伝導系走行には個体差があるが,心室中隔欠損のSotoらの分類型別にほぼ固有の傾向を認めた.His束分布状況は諸家の報告とほぼ同一であつた.しかし,右脚走行については,乳頭筋との位置関係から,外科的に興味ある次の傾向を観察した.perimembranous VSDでは,欠損の型別とは無関係に,右脚はupper AcPM群の直下(左室側)ないしやや前方(遠位側)を通過した.右脚はmedial papillary muscle(MPM)の後下方(近位側)に位置したが,この両者間距離には型別,個体別に可成りのばらつきをみた.フアロー四徴症(TOF)では,右脚はMPMの直下ないしやや前方を通過した.infundibular型VSDの右脚,uppermost AcPM間位置関係は,TOFの右脚,MPMと類似傾向を示した.conus septumの形成不全はinfundibular型欠損の他にしばしばMPMの欠如を招き,胎生学的uppermost AcPMがMPM様形態をとるとのVan Mierop説を肯定すると,著者らの観察所見は,「VSDの型別如何を問わず,右脚は胎生学的uppermost AcPMの直下ないしやや前方を走る」と一元的に解釈できる.なお,右脚,upper AcPMs間位置関係は,そこに介在するtrabecula septomarginalisの態度により更に若干修飾されるように思われた.これらの関係は他の心奇形においてもしばしば観察された.またspecialized conduction axis,特に右脚は,upper AcPM群基部より通常反心尖寄りに認められた.これらの情報を臨床に導入開始以来,伝導障害発生率は著しく低下した.従つて,欠損の型分類確認の上,上記の外科的指標を活用することは,本合併症防止に有用と考える.

キーワード
(外科的)刺激伝導障害, 刺激伝導系走行指標, 刺激伝導系組織学的検索, medial papillary muscle, accessory papillary muscle


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