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日外会誌. 85(8): 799-810, 1984


原著

肝細胞動態よりみた肝再生と,hepatotrophic factorsの効果に関する実験的研究

北海道大学 医学部第1外科(主任:葛西洋一教授)

佐藤 直樹

(昭和58年11月2日受付)

I.内容要旨
肝の再生現象で主要な役割を占めるものは肝細胞分裂による細胞の新生であるが,DNA合成がこれに先行する.しかしながら,DNA合成の亢進後に必ずしも細胞分裂がおこるものではなく,また,DNA合成の亢進なしに細胞分裂はおこりうる.したがつて,肝の再生現象は連続的な細胞動態の変化としてとらえられなければならない.
この研究では,約220g Wistar系雄性ラットの正常肝細胞および30%,70%肝部分切除後の再生肝細胞をFlow Cytometryを用いて測定し,得られたDNA histogramおよび肝細胞集積比率などにより肝細胞動態の経時的変化を解析した.さらに,肝細胞動態に対するhepatotrophic factorsの効果をinsulin,glucagon,epidermal growth factor (EGF),小腸由来因子などを投与して比較検討した.
正常肝細胞のDNA histogramは,分裂前休止期と分裂期 (G2M) 優位の2峰性のパターンを示した.肝部分切除後の再生肝の細胞動態は肝切除量によつて異なり, 30%肝切除群ではG2M優位の2峰性で,術後4週までその変動は軽微であった.一方, 70%肝切除群では,ピークは12時間後のG0G1より,24時間後S,36時間後G2M,48時間後G0G1へと移動する.3日以後G0G1漸減にともないG2Mは漸増し, 7日以後はG2Mの1峰性集積像を呈した.これは,肝切除後早期における肝細胞の著明な分裂と増殖ののち徐々にendomitosisが進行し,後期にはG2M細胞, すなわちpolyploid細胞が集積するに至ったものと理解される. この著明な細胞回転とpolyploid化の進行は旺盛な肝再生を示唆する.
また, EGF,小腸由来因子は,正常肝および肝部分切除後の細胞回転に促進的に作用し,肝再生を惹起するinitiatorの性格を有することが推定された.しかしながら, insulin,glucagonの投与による細胞回転の促進効果はみられなかった.

キーワード
肝切除後肝再生, 肝細胞動態, Flow Cytometry, hepatotrophic factors, 小腸由来因子

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