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日外会誌. 85(7): 654-662, 1984


原著

重症熱傷時の心機能変化に関する実験的研究

川崎医科大学 救急医学教室(主任:小浜啓次教授)

鈴木 幸一郎

(昭和58年9月13日受付)

I.内容要旨
重症熱傷患者においては,受傷後早期より著しい心拍出量の減少が認められる.そこでこの低心拍出量の発生機序に関して特に心臓のポンプ作用を規定する前負荷,後負荷,心収縮性の3要因の立場から検討し,重症熱傷時の早期循環不全の治療指針を得る目的で以下の実験を行った. 17頭の雑種成犬をA群 (偽熱傷),B群 (熱傷単独),C群 (熱傷+輸液12.5ml/kg/hr) の3群に分けIII度50%熱傷作製後6時間にわたり心臓機能を比較検討した.計測項目は,心拍出量, 1回拍出量,大動脈圧,心拍数,左心室内圧とその1次微分 (dp/dt),左心室dimension (超音波クリスタルによる局所心筋長) であり,心収縮性指標としてpercent shortening (%⊿L),平均左心室円周方向線維短縮速度 (mean Vcf),peak dp/dt,左心室収縮末期圧ー長さ関係 (Emax) を用いた.その結果,熱傷群 (B, C群) では熱傷作製後30分で心拍出量は前値の50%に減少し同時に大動脈圧の低下と心拍数の増加を認め以後360分まで続いた.この時,前負荷の指標として用いた左心室拡張末期心筋長 (EDL) と左心室拡張末期圧 (LVEDP) は,熱傷群で有意に低下した (p<0.001).しかしC群のLVEDPは,B群のそれと比較し有意 (p<0.001) に高値をとり,輸液療法によりLVEDPは上昇した.即ち,輸液療法により心筋stiffnessは増大する可能性のあることが示された.心収縮性指標の%⊿L,mean Vcf, peak dp/dt,Emaxは,4者共に熱傷群で有意な低下を示した (p<0.001).これら心収縮性指標は,前負荷,後負荷,心拍数などにより影響されるが,前負荷の指標としてのEDL,LVEDPや,後負荷の指標としての大動脈圧を考慮しても,これら心収縮性指標の低下は,熱傷に伴う心収縮力の低下を強く示唆した.
以上より重症熱傷早期の低心拍出量の発生機序として,①前負荷の減少,②心収縮性の低下,③熱傷に伴う心筋stiffness増大の可能性およびそれによる心室充満の阻害,の3者が関与しているものと考えられる.

キーワード
熱傷, 心機能, 心収縮性, 心筋stiffness, 前負荷


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