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日外会誌. 85(7): 643-653, 1984


原著

高カロリー輸液の担癌生体に及ぼす影響についての実験的検討

神戸大学 第1外科

西嶋 宗義 , 大柳 治正 , 斉藤 洋一

(昭和58年10月5日受付)

I.内容要旨
癌患者に対する術前術後の高カロリー輸液(以下TPN)は欠くことの出来ない管理法の一つであり,本実験は担癌体に対するTPNの影響を宿主側,腫瘍側より検討したものである.実験は4-nitro-quinoline1-oxideで誘発され移植可能となった佐藤肺癌を使用し,背部皮下に移植したものと,下肢筋肉内に移植した後,下肢切断によつて転移を惹起させた2つのモデルを使用した. 管理は平均330Cal/kg/dayの経口自由摂取群, 250Cal/kg/dayのTPN群,70Cal/kg/dayの低カロリー輸液群に分け,化学療法はadriamycinと1 (4-amino-2methyl-5pyrimidinyl) methyl-3- (2-chloroethyl) -3-nitro-sourea hydrochrolide. (ACNU) を使用した.
腫瘍生長は投与カロリー量に比例しており,低カロリー輸液群に比し, TPN群は腫瘍増大がみられpolyamine,リン酸化能,単位質量あたりのDNA量には変化がなかつたが,thymidine kinase活性,mitotic indexでは低カロリー輸液群とTPN群との間に有意な差があった.
免疫能に関しては,経口自由摂取群に代表される栄養状態良好群が,IgG,IgM plaque forming cells,PHA幼若化能において高値を示し,栄養の改善が液性免疫,細胞性免疫能の維持に深く関与していることが示唆された.
一方,化学療法時のTPNの効果について,腫瘍生長よりみると,感受性の有無に関係なくTPNが化学療法の効果を高めることは認められなかった.しかし,化学療法の副作用による体重減少, 白血球減少はTPNによりある程度抑制されることが判明し,転移モデルで生存日数をみても,TPN併用化学療法群が最も予後が良好であつた.このようにTPN併用化学療法群が担癌体に与える影響をみると,必ずしも宿主に有益に働く因子ばかりではないが,宿主全体を考えると癌治療に有効な手段であることが示唆された.

キーワード
高カロリー輸液, 佐藤肺癌, 腫瘍生長, 免疫能, 化学療法

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