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日外会誌. 85(7): 633-642, 1984


原著

癌に対する局所温熱単独療法に関する実験的研究
-加温条件からみた抗腫瘍効果について-

宮崎医科大学 第二外科学教室室(主任:古賀保範教授)

松崎 泰憲

(昭和58年9月2日受付)

I.内容要旨
近年,腫瘍細胞が温熱に対して,正常細胞に比べsensitiveであるという特性を応用した温熱療法が,癌治療に導入されつつあるが,効果的な加温条件については未だ確立されていない.そこで,温熱単独療法の抗腫瘍効果に影響する加温条件について検討することを主な目的とし,実験的にC3Hマウス下肢に腹水型肝癌細胞MH-134を2×105個移植後,温水による局所温熱療法を行い,次の結果を得た.
I. 正常組織は,45℃で30分以上,あるいは42℃で240分以上の加温により非可逆的な障害を受けることが明らかとなった.
II. 加温条件について,1)腫瘍内温度: 42℃,2)加温開始時期:移植後20日以内,3)1回の加温時間: 30分以上,4)加温回数: 2回以上,5)加温間隔: 48時間以上,の各群において,腫瘍増殖を対照群のそれと比較し,有意の差で腫瘍抑制効果が認められた.
III. 加温時間および加温回数については,加温時間,加温回数の増加による相加相乗効果は期待できなかった.
IV. 加温間隔が24時間以内では,熱耐性(thermotolerance)の誘導が認められ,今後,温熱療法の臨床応用の際,考慮すべき事項と考えられた.
V. 42℃で120分以内の加温により正常組織は可逆的な軽度の障害にとどまる一方,腫瘍組織は退縮し,組織学的に核濃縮,胞体の消失,変性,壊死の所見を呈し,腫瘍細胞の高い温熱感受性が確認された.
VI. 加温早期には腫瘍の所属リンパ節への転移が抑制されたが,長期的には転移に関して対照群と差を認めず,局所で抗腫瘍効果を認めても,有意の延命効果は得られなかった.
以上, MH-134腫瘍に対する局所温熱単独療法について検討したが,各種の加温条件により抗腫瘍効果が明らかに異なること,ならびに加温間隔によつては熱耐性が誘導される事実などを明らかにした.これらは臨床応用の際,考慮されるべき事項と思われた.

キーワード
局所温熱療法, 加温条件, 熱耐性


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