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日外会誌. 85(6): 521-533, 1984


原著

消化器手術前後におけるLysozyme活性の変動

和歌山県立医科大学 外科学講座(消化器)(指導:勝見正治教授)

佐々木 政一

(昭和58年7月19日受付)

I.内容要旨
消化器手術前後におけるLysozyme活性の変動を臨床的,実験的に検討した.
消化器手術患者において,血清Lysozyme活性は術前値に比べ術後有意に低下した.その低下は特に担癌例において著明であり,年齢,出血量,手術時間とも相関があった.すなわち高齢者程,術中出血量が多い程,手術に長時間を要したもの程,術後の活性低下が著しく,術前値への回復に遅延がみられた.また疾患別,術式別にみても手術侵襲の大きいもの程,活性の低下が著しく,術前値への回復に遅延がみられ,術後合併症を併発した症例も同様の結果であった.これらの結果から,術後における血清Lysozyme活性の変動は,手術侵襲の大きさおよび術後経過をよく反映し,それらの一指標になり得ると考えた.
一方,動物実験においても血清Lysozyme活性は,結腸切除手術により術後有意に低下し,しかも麻酔方法,手術時間を同様にした開腹術単独に比べ,術前値への回復に遅延がみられ,手術侵襲の大きさによる活性変動に差がみられた.これに比べ,直接手術侵襲が加えられた局所組織(結腸吻合部,腹壁縫合部)のLysozyme活性は術後著明に上昇した.そしてその上昇と血清Lysozyme活性の低下との間に,有意な相関関係がみられたことより,その機作として血清Lysozymeの局所組織への動員,Lysozyme分泌細胞の局所組織への移動を想定し,これはLysozymeの生理作用からみて合目的的な増加と考えた.またLysozyme分泌と関連の深い腹腔内macrophageの術後における墨汁粒子貪食能を指標とした機能も亢進しており,術後の腹腔内においてmacrophageはLysozymeを産生,分泌し,生体防御に関与しているものと思われた.
術前における卵白Lysozymeの経口投与は血清中のLysozyme活性を上昇させ,術後も非投与群と比較して高活性を維持できることから,その生理作用と考えあわせ,手術侵襲に対する生体防御能の向上に有効な手段と考えた.

キーワード
消化器手術侵襲, 血清Lysozyme活性, 局所組織Lysozyme活性, 腹腔内macrophage, 術前卵白, Lysozyme経口投与


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