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日外会誌. 85(4): 307-317, 1984


原著

食道静脈瘤に対する血行遮断術前後の下部食道・胃血行動態に関する実験的,臨床的研究

久留米大学 医学部第1外科教室(主任:掛川暉夫教授)

外山 俊二

(昭和58年6月3日受付)

I.内容要旨
食道静脈瘤に対する直達手術において静脈瘤消滅のためには広範な血行遮断術が必要である反面,この血行遮断により組織のanoxiaや術後の縫合不全の発生も懸念される.そこで胃血行遮断術前後における下部食道・胃血行動態変化を血流の面から実験的,臨床的に検討してみた.
実験的検索においては雑種成犬34頭を用い水素ガスクリアランス法にて測定し次の結果を得た.まず雑種成犬8頭を用い開腹下に左胃動静脈を根部で結紮すると,60分後には胃噴門部血流は40.3%の有意な減少を,胃体中部より傍食道にいたる小弯側血行遮断を施行した7頭では55.7%の有意な減少を認めた.さらに長期に血行遮断術後の影響を見るために雑種成犬11頭に経腹的血行遮断術を施行し,遮断後60分の胃噴門部血流を測定すると73.0%の著明な減少を認め,いずれも術後3~4日目に全例胃壊死による腹膜炎にて死亡した.次に,門脈圧亢進症における血行遮断術が下部食道・胃血行動態に及ぼす影響を検討するため肝圧縮法による門脈圧亢進症犬(門亢犬) 8頭を作成した.肝圧縮後4週目に正常犬と同様の経腹的血行遮断術を施行し60分後の胃噴門部血流を測定すると28.5%の減少に留まり,全例十分に耐術し2週目にはほぼ前値にまで回復した.
一方,臨床においては食道静脈瘤を伴なう肝硬変10例を検索対象とした.血行遮断術施行前後の胃噴門部組織酸素分圧の変化を測定すると25.7%の減少しか認められなかった.
以上より,肝硬変症例に対する広範な血行遮断術が下部食道・胃血行動態に及ぼす影響は対照群と比べて明らかに少なく組織のanoxiaは軽度であると考えられた.

キーワード
食道静脈瘤, 血行遮断術, 水素ガスクリアランス法, 組織酸素分圧, 門脈圧亢進症犬


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