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日外会誌. 85(3): 254-260, 1984


原著

高齢者腹部大動脈瘤の外科治療

川崎医科大学 胸部心臓血管外科

稲田 洋 , 藤原 巍 , 土光 荘六 , 元広 勝美 , 佐藤 方紀 , 木曽 昭光 , 野上 厚志 , 正木 久男 , 中井 正信 , 勝村 達喜

(昭和58年5月9日受付)

I.内容要旨
近年生活様式の欧米化および平均寿命の延長にともない腹部大動脈瘤の症例数の増加,またそのうちに占める高齢者症例の増加を認めるようになった.しかし高齢者腹部大動脈瘤の治療方針については未だ多くの問題点が存在しており,著者らは自験例を高齢者群と非高齢者群に分けて比較調査し,本問題を検討した.
川崎医科大学胸部心臓血管外科において過去8年間に経験した腹部大動脈瘤症例は49例で,そのうち70歳以上の高齢者は23例であり,70歳末満の非高齢者は26例であった.
高齢者群と非高齢者群で入院時合併症の頻度,動脈瘤の大きさ,手術の難易度に有意差は認められなかった.手術死亡率,術後6年生存率は高齢者群で5.9%,69.2%であり,非高齢者群で4.0%,57.8%であり,各々両群間に有意差は認められなかった.高齢者群における手術例と非手術例の5年生存率は69.2%と0%で有意差をもつて手術例の遠隔予後が良好であった.高齢者非手術例の遠隔死因の40%が残存動脈瘤の破裂であった.
つまり著者らの高齢者腹部大動脈瘤の手術成績は遠隔予後も含めて非高齢者と変わりなく,また各種報告による高齢者の手術成績と比べても,ほぼ相違はないように考えられた.一方高齢者腹部大動脈瘤の非手術例においては高率に残存動脈瘤の破裂死亡を認めた.
高齢者腹部大動脈瘤における手術適応に関して,著者らは年齢にかかわらず高齢者においても,動脈瘤の大きさを問わず原則的には総て手術適応があるものと考えている.

キーワード
腹部大動脈瘤


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