[書誌情報] [全文PDF] (4508KB) [会員限定・要二段階認証]

日外会誌. 85(3): 261-273, 1984


原著

閉塞性末梢動脈病変診断のための,零交叉流速波形の定量的解析の評価
-臨床的, 実験的検索-

東京医科歯科大学 第1外科(主任:毛受松寿教授)

佐藤 彰治

(昭和58年5月24日受付)

I.内容要旨
零交叉流速波形による閉塞性末梢動脈病変の信頼性の高い部位診断法を確立する事を目的として,零交叉流速波形の定量的解析法を臨床例と実験例で検討した.臨床例では正常例10例20肢,疾患例57例100肢を対象とした.定量的解析としてpulsatility index (以下P.I.) ,proximal damping quotient (以下PDQ),Acceleration, Deceleration,最高血流速度,平均血流速度とdistal damping quotientの7種の値を算出し,これら個々の特性と相互の関係を検索した結果,P.I.,PDQ,最高血流速度の3値にて流速波形の変化を正しく評価できると考えた.これら3値は,測定部より中枢側病変の狭窄の程度をよく反映して変動したが,末梢側病変による影響もある程度受け,特にP.I. で強く認められた.receiver operating characteristic curve(以下ROC curve)による検索では,PDQが測定部より中枢側病変を診断する最もすぐれた検査法である事がわかった.またROC curveより総大腿動脈部位での正常値を P.I. 4.5以上,PDQ 1.4以下,最高血流速度20cm/sec以上と定めた.
腹部大動脈一腸骨動脈領域の閉塞性病変の診断は,まず総大腿動脈部でのP.I. とPDQを用いて診断を行い,両値の結果が一致しない時には更に最高血流速度を用いて診断を行った.その結果はsensitivity 95%,specificity 89%と良好な成績が得られた.また大腿動脈より末梢の閉塞性病変の診断には,P.I.とPDQのdamping factorが有効であり,限局性病変ではP.I.-Dで100%,PDQ-Dで83%で正診でき,多発性病変における浅大腿動脈閉塞の診断は,P.I.-Dで71%,PDQ-Dで71%に正診できた.これらの結果は分節血圧法による部位診断能よりすぐれていた.
以上の結果より零交叉流速波形の定量的解析法による閉塞性病変の部位診断は,P.I.,PDQと最高血流速度を用いた総合診断によつて信頼性を高める事ができると考えた.

キーワード
零交叉流速波形, 定量的解析, pulsatility index (P. I.), proximal damping, quotient (PDQ), 最高血流速度


<< 前の論文へ

PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。