[書誌情報] [全文PDF] (5113KB) [会員限定・要二段階認証]

日外会誌. 84(11): 1186-1197, 1983


原著

乳頭部癌切除例の臨床病理学的検討
-とくに肉眼型,癌進展と予後について-

久留米大学 第2外科教室(主任:古賀道弘教授)

佐田 正之

(昭和58年2月12日受付)

I.内容要旨
乳頭部癌は発生部位である乳頭部の解剖学的特異性のため,その発生進展は他の消化管悪性腫瘍の場合と比較して複雑であり,その発生,進展形式の解析は不充分である.
またいわゆる“早期乳頭部癌”の概念も未だ判然としていないのが現状である.本研究ではこのような観点より,膵頭十二指腸切除にて得られた乳頭部癌59症例について臨床病理学的考察を加えた.
また血清carcinoembryonic antigen(以下CEAと略す)値および組織CEAの局在様式についても,それぞれradioimmunoassay法, peroxidase-antiperoxidase(以下PAP法と略す)を用いて検討を行なつた.
乳頭部癌の肉眼形態分類は,胆道癌取扱い規約1)に従い,組織学的深達度はOddi氏筋を越えた増殖の有無,十二指腸筋層浸潤および膵浸潤の有無によつて分類された.今回の検索によつて,乳頭部癌の発生,進展は大きく腫瘤形成型と潰瘍形成型の二つの過程が存在することが示唆され,両者の性格を有する腫瘤潰瘍型および潰瘍腫瘤型のものは,腫瘤形成型より二次的に潰瘍形成を伴つて形成されるものと思われた.臨床病理学的に予後を左右する因子としては,所属リンパ節転移の有無,脈管侵襲の有無および膵浸潤の有無が最も重要なfactorであつた.また組織学的深達度を検討すると, Oddi 氏筋を越えて癌細胞の増殖を認めない例は,腫瘤型のものにのみ認められ,このような例では100%の5年累積生存率を示すことが判明した.以上の点より,腫瘤型でかつOddi氏筋を越えて癌の増殖を見ない群を“早期乳頭部癌”と考えるのが最も妥当と思われたが,この中にも大きさにかかわりなくリンパ節転移が見られる例が存在し,この点についてさらに検討が必要である.
組織内CEAは多くの例(82.4%)で陽性であつたが,血清CEA値(正常値2.5ng/ml以下)の上昇を認める例は甚だ少なく,その血清学的診断的意義は少ないと言わざるを得ない.

キーワード
乳頭部癌, 早期乳頭部癌, carcinoembryonic antigen (CEA)


<< 前の論文へ次の論文へ >>

PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。