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日外会誌. 84(11): 1155-1160, 1983


原著

ラットのCysteamine潰瘍に対する迷走神経切離術
特に炭酸ガスレーザーを用いた選択的近位胃迷走神経切離術の研究
第一報:Brunner腺の変化よりみた十二指腸粘膜防御機構の病理組織学的研究

防衛医科大学校 外科学第一講座(指導:岩佐博教授)

門田 俊夫

(昭和58年1月24日受付)

I.内容要旨
十二指腸潰瘍に対する選択的近位胃迷走神経切離術を, より簡単で合併症が少なく再発率の少ない手技として確立する目的で,胃の壁細胞領域への炭酸ガスレーザー非焦点照射を用いた炭酸ガスレーザー迷切を開発した. この有用性を実験する目的でラットに迷走神経幹切離術,選択的近位胃迷走神経切離術,レーザー迷切を施行し,これにCysteamineを用いた十二指腸潰瘍誘発実験を行ない,潰瘍防御機構としてのBrunner腺の病理組織変化を検索した.無処理ラットではCysteamine投与後18時間で全例に十二指腸潰瘍の発生を認めた.迷走神経切離を行つたラットでは,術式のいかんを問わず潰瘍発生は防止された.しかし幹迷切を行つた群には胃潰瘍の発生を認めた.次に十二指腸のBrunner 腺を観察した.無処理ラットではCysteamine投与後PAS陽性物質は著明に減少し,腺管腔は拡大していた.各迷切群ではPAS陽性物質は温存され, 腺管腔の拡大は認めなかつた.
以上の成績よりCysteamine誘発潰瘍は胃酸,ペプシンの攻撃因子と粘膜抵抗の平衡失調によると考えられ,人間における十二指腸潰瘍発生と極めて類似していると考えられる.
迷走神経切離術は攻撃因子に対しては減酸効果,防御因子に対してはBrunner腺による粘膜抵抗力の保全という両面からCysteamineによる十二指腸潰瘍発生を防止する. さらにレーザー迷切は手技が容易で短時間で行い得,血行も障害せず, Cysteamine誘発潰瘍を防止し,組織学的にも防御因子の主役であるBrunner腺の形態と機能を十分に保全する事を確めた.

キーワード
炭酸ガスレーザー迷切, 選択的近位胃迷走神経切離術, Cysteamine潰瘍, Brunner腺, 幹迷切


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