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日外会誌. 84(8): 719-728, 1983


原著

膵頭部癌における神経周囲侵襲

名古屋大学 医学部第1外科学教室(主任:弥政洋太郎教授)

松田 真佐男*) , 二村 雄次

(昭和57年12月27日受付)

I.内容要旨
癌における神経周囲侵襲の存在は古くより知られているが,その臨床的な検討は未だ十分にはなされていない.膵は後腹膜臓器として主要な腹部自律神経叢と接しており,膵癌における神経周囲侵襲の意義は,広範囲神経叢郭清の後遺症の問題をも含め,外科臨床上の重要な問題となるものと予想される.そこで,膵頭部癌症例の神経周囲侵襲につき検討し,その臨床的意義につき考察を加えた.
膵頭部癌切除例中,膵全摘および広範リンパ節郭清に加えて,広範囲の自律神経叢郭清が行われた14例を対象とし,切除標本を膵全割切片, リンパ節標本および神経叢標本の3部に分け,各々の神経周囲侵襲につき検討した.その結果,全例に膵実質内での神経周囲侵襲を認めるとともに,膵周囲自律神経叢での神経周囲侵襲を膵頭神経叢で8例,上腸間膜動脈神経叢で3例,腹腔神経叢で2例,膵外胆管周囲神経叢で2例と,計9例(64%) に認めた.この神経周囲侵襲の進展様式は,膵内においてperineural spaceに侵入した癌が,自律神経系の走行に沿つて,周囲神経叢を中枢に向け浸潤していくという縦方向の進展が主体を占め,膵内を尾側に向けて広がるという横方向の進展は全く認められなかつた.神経周囲侵襲の場は神経周膜の層板間と周膜下であり, この部は組織学的にはリンパ系とは別の経路と考えられており,臨床例でも神経侵襲とリンパ節転移の所見には明らかな較差を認めた. 一方,広範な神経叢郭清による自律神経支配の欠落症状も重大な問題であり,自験例でも全例に頑固な術後下痢症がみられ,各種止痢剤による慎重なコントロールを要した.
膵頭部癌における神経周囲侵襲は高頻度かつ広範囲に認められるものであり,膵癌切除例の根治性向上のためには,広範囲の自律神経叢郭清を加えることが必要である.適切な郭清範囲の決定のためには今後の症例の集積が望まれる.

キーワード
膵癌, 神経周囲侵襲, 膵全摘術, 神経叢郭清, 膵周囲神経叢


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