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日外会誌. 84(8): 712-718, 1983


原著

膵全摘後膵組織片移植群と膵全摘後インスリン治療群の糖ならびに脂質代謝について

長崎大学 医学部第2外科

元島 幸一 , 持永 信夫 , 山口 孝 , 野田 剛稔 , 角田 司 , 吉野 寮三 , 原田 昇 , 伊藤 俊哉 , 土屋 涼一

(昭和57年12月10日受付)

I.内容要旨
成犬を用い,膵全摘後膵組織片移植群と膵全摘後インスリン治療群を作製し,両群間における糖,脂質代謝について比較検討した.
方法:雑種成犬22頭に膵全摘を行い,その内5頭を対照群とし,つぎの5頭にインスリン治療を行い,残り12頭が膵移植群である.作製後空腹時血糖,TG,TC,PL,LP分画を経時的に測定した.そして膵移植群とインスリン治療群に持続的に糖負荷を行うglucose infusion testとinsulinをone shotで静注負荷するinsulin testを行つた.
結果:対照群の血糖は術直後より上昇し,8.0±2.4日で全例死亡した.膵移植群の空腹時血糖は長期にわたり正常に維持された.一方,インスリン治療群の血糖はきわめて不安定であつた.膵移植群の血中脂質は血糖に先立つて移植4日目より正常化し,以後長期にわたり正常値を示した.一方,インスリン治療群で血糖が200mg/dl以下であれば血中脂質は正常値を示したが, 200mg/dl以上の時は正常値を示したり異常高値を示した.3群の空腹時血糖値とTG値の相間関係を調査したが,インスリン治療群のみに相関傾向が認められた.Insulin testで膵移植群は30分で血糖値は回復するのにインスリン治療群はすみやかに低血糖に陥り回復が著しく遅延し,同時にFFAも低下した. Glucose infusion testで膵移植群の血糖は約100mg/dlを維持し,TG,FFA値も変動しなかつた.一方,インスリン治療群の血糖は急速に上昇し120分で500mg/dl以上となり,同時にFFAが3mEq/lと異常高値を示し,ついで尿中ケント体が陽性化した.
結論:膵全摘後膵移植群の糖,脂質代謝は円滑に営なまれた.一方,膵全摘後インスリン治療群の血糖は不安定でinsulin testで容易に低血糖に陥り, glucose infusion testで急速にdiabetic ketoacidosisに移行した.

キーワード
膵組織片移植, 膵全摘後インスリン治療, insulin test, glucose infusion test, diabetic ketoacidosis


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