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日外会誌. 84(6): 518-528, 1983


原著

肝細胞癌に対する肝動脈遮断術の抗腫瘍効果に関する病理組織学的検討
-切除肝組織よりみた腫瘍壊死像について-

兵庫医科大学 第一外科
*) 兵庫医科大学 放射線科

田中 信孝 , 岡本 英三 , 豊坂 昭弘 , 中尾 宣夫*)

(昭和57年8月3日受付)

I.内容要旨
あらかじめ主たる腫瘍動脈に対し肝動脈結紮術 (HAL) ないしtranscatheter arterial embolization (TAE) 療法を行い, 10日から35日後に肝切除施行した6症例を対象として,原発性肝癌に対する肝動脈遮断術の阻血効果を病理組織学的に検討した.
HALとTAE療法とは共に主腫瘍に広汎な凝固壊死をもたらし,その程度並びに壊死様式上,両者に明らかな差を認めなかつた.
主腫瘍は何れも被膜を有する膨張型発育肝癌であったが,主腫瘍の最大割面に占める壊死面積をもつて腫瘍壊死率と表現すると,右葉後区域下部に孤立性に存在した結節型腫瘤の1例で100%の腫瘍壊死をみた.その他の5症例では40~90%の壊死率を示した.
主腫瘍の腫瘍壊死部は必ず偏在性で,恰も腫瘍被膜の1/3周~4/5周を基底とし,反対側に 向つて連続的に広がるが如き形態をとつた.即ち,巨大腫瘍に屡々見られる中心壊死像とは全く様相を異にしていた.腫瘍残存は主腫瘍の横隔膜側,肝動脈遮断を受けていない対側肝葉に面する側,胆嚢床及び肝門側にみられたが,腫瘍残存部と壊死領域とは明確に隔壁で境界され,両者の血管支配が互いに独立していることをうかがわせた.
主腫瘍近傍の小癌結節は何れも被膜形成を欠き,その腫瘍壊死は同時に周囲非腫瘍部の変性壊死を伴つた症例以外では,全く認められなかつた.門脈内腫瘍栓も壊死を免れていた.
非腫瘍部組織の変化は概ね軽度であつたが,小動脈の血栓性閉塞に加え門脈枝内に多数の腫瘍栓をみた症例では,特に非腫瘍部の変化の著明な個所を認めた.
以上の結果から,肝動脈遮断術のみで肝癌治療を行うにはhepatic dearterializationを完全にすべく努めるべきであり,小癌結節に対する対策は爾後の問題であると考察した.

キーワード
肝動脈結紮術, TAE療法, 二期的肝切除, 腫瘍壊死像, 切除不能原発性肝癌


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