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日外会誌. 84(3): 232-236, 1983


原著

開心術症例における輸血後肝炎の検討

長崎大学 医学部第一外科
*) 大分医科大学 第二外科

釘宮 敏定 , 岡 忠之 , 草場 英介 , 福島 建一 , 黒岩 正行 , 高木 正剛 , 宮川 尚孝 , 高木 雄二 , 富田 正雄 , 調 亟治*) , 賀来 清彦*) , 葉玉 哲生*)

(昭和57年8月7日受付)

I.内容要旨
1978年から81年までの4年間に長崎大学第1外科で開心術を施行した症例のうち,手術死亡例,術前よりの肝障害例,および記載不十分例を除く168例について,輸血後肝炎の発生状況ならびに肝炎発生に関連すると思われる臨床的諸因子についての調査を行つた.輸血後肝炎の診断基準は,厚生省輸血後肝炎調査研究班(吉利班)の基準を採用した.
4年間の肝炎発生例は27例(16.1%)で, うち26例が非A非B型肝炎であつた.乾燥人血液凝固第IX因子複合体(PPSB)使用例の92%に肝炎が発生したため, 1979年以降本剤の使用を中止し,肝炎発生率は30.8%から11.6%へと有意の低下をみた.
開心術後の肝炎発生率は術中,術後に患者に輸注された血液および血液製剤の供血者数(BT単位)と正の相関関係があり, BT単位20以下の症例は21以上の症例に比して有意(P<0.01)に肝炎発生率が低かつた.また手術時間330分未満群,体外循環時間90分未満群,大動脈遮断時間45分未満群は,それぞれの以上群に比して有意に肝炎発生率が低かつたが,それが各群間の輸血量の差のみによるものか,あるいは手術・体外循環の侵襲等に伴う生体側要因の相違も加わっているのかは明らかでなかつた.同様に20歳未満は20歳以上群に比し,また右心負荷疾患群は左心負荷疾患群に比して有意に肝炎発生率が低かつたが, これも必ずしも生体側要因のみによる差異とは断定できなかつた.
以上,現時点では, ウイルス学的マーカーのない非A非B型肝炎が主体の輸血後肝炎に対する確実な予防法はなく,輸血量および血液製剤使用量をできるだけ節減して,感染機会を少なくすることがもつとも重要と考えられた. とくにプール血漿を原料とした血液凝固因子製剤は肝炎発生の危険がきわめて大きく,血小板濃厚液,クリオプレシピテート等の成分輸血製剤の方がはるかに安全である.

キーワード
輸血後肝炎, 非A非B型肝炎, 開心術後肝障害, 血液分画製剤

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