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日外会誌. 83(11): 1295-1306, 1982


原著

肝悪性腫瘍に対する制癌剤動注療法の検討
-特に肝内薬剤動態と血管作動性薬剤の併用効果について-

千葉大学 医学部第1外科

宮崎 勝

(昭和57年5月25日受付)

I.内容要旨
肝悪性腫瘍に対する制癌剤動注療法時における肝内の薬剤動態と各種血管作動性薬剤の併用の効果を基礎と臨床の両面より検討した.肝悪性腫瘍患者における投与経路別の肝内薬剤濃度の検討では,末梢静脈:腹部大動脈:腹腔動脈= 1: 1.2: 6.8であり,その際の末梢静脈血中の薬剤濃度は末梢静脈>腹部大動脈>腹腔動脈の順に低下した.しかし,腹腔動脈内投与の場合は,肝による薬剤のclearanceを上廻る量を投与しているので,薬剤の肝静脈へのeffluxが増大した.そのため腫瘍細胞に対してはcytocidalな効果を持つが,正常肝細胞には可及的に少量の制癌剤を到達させ,肝静脈へのeffluxを最小限にする事を目的として,血管作動性薬剤との併用に関する基礎的検討を家兎肝に移植したVX-2腫瘍により検索した.交又熱電対法による正常肝組織およびVX-2腫瘍組織血流への血管作動性薬剤の影響を検討したところ,末梢血圧を50%上昇させる投与量においてangiotensin II(AGT II)は正常肝組織への血流は減少させたが,VX-2腫瘍組織への血流を著明に増大せしめた.薬剤の肝への分布は肝血流圧も関係すると考えられるので,adriamycin(ADM)と血管作動性薬剤を同じ実験系において同時投与した. VX-2組織内のADM濃度はAGT IIにおいて著明な濃度の増加を認めたが,正常組織内濃度はADM単独投与に比し有意増加を認めなかつた.これを腫瘍組織内濃度/正常肝組織内濃度(T/N比)で比較すると,ADM単独投与0.08±0.06に対しAGT II 0.41±0.06(p<0.001)と有意なT/N比の上昇効果を示した.
以上の結果より,AGT II併用による肝動脈内制癌剤投与を行つた.肝悪性腫瘍患者に対するAGT II投与による肝血流量の減少は家兎のそれと良く一致しており,また,10症例に対する本療法の臨床成績は肝腫の完全消失1例,partial regressionが5例に見られ,その縮少の速度がAGT II非併用と較べて早い傾向を示し,腫瘍組織に対する制癌判の到達性をAGT IIが増加させる臨床上での示唆が得られた.

キーワード
肝悪性腫瘍, 制癌剤動脈注入療法, 血管作動性物質, アンギオテンシンII, 肝血流量

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