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日外会誌. 83(10): 1241-1251, 1982


原著

腎保存の実験的研究
-近位尿細管の電顕的観察-

岐阜大学 医学部第1外科学教室(指導:稲田 潔教授)

古田 治彦

(昭和57年4月6日受付)

I.内容要旨
死体腎移植において,摘出された腎のviabilityは温阻血時間(WIT)および冷阻血時間(CIT)の長短,各種腎保存法によつて大きく影響される.なかでも近位尿細管はその機能の重要性と虚血により変化を受けやすいことより,同部位の壊死性変化は移植後の腎機能に重大な影響をおよぼすと考えられる.そこで著者は犬腎を用いてWITおよびCITを設定し,各種保存液を使用した単純冷却保存法および低温灌流保存法の,腎保存下における近位尿細管の経時的変化を透過型電子顕微鏡を用いて観察し,各種保存法の比較検討を試み,次の結果を得た.
1)温阻血時間30分では近位尿細管の保存は良好であるが,60分および90分では壊死性変化が著明である.
2)温阻血における空胞変性はその経時的変化とよく相関する.
3)単純冷却保存法における乳酸リンゲル液とmodified Collins液の比較では,乳酸リンゲル液で糸粒体の膨化,崩壊がmodified Collins液に比し著明である.
4)cryoprecipitated fibrinogen-free plasmaによる低温灌流保存法では,単純冷却保存法のmodified Collins液に比し,細胞の浮腫は軽度であるが,保存8時間を越えると加速度的に細胞損傷が, また灌流による機械的損傷の像が観察される.
5)乳酸リンゲル液による低温灌流保存法では糸粒体の選択的損傷が認められる.
以上の結果より形態学的変化における温阻血時間の限界は30分であり,少なくとも10時間以内の保存ではmodified Collins液による単純冷却保存法がもつとも優れていると考えられる.

キーワード
腎保存法, 温阻血時間, 冷阻血時間, 透過型電子顕微鏡, 近位尿細管

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