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日外会誌. 83(8): 760-768, 1982


原著

膵頭十二指腸切除時の膵管空腸吻合の治癒過程とその開存性

天理よろづ相談所病院 腹部外科(主任:柏原貞夫院長)

松末 智

(昭和57年3月27日受付)

I.内容要旨
膵頭十二指腸切除時の膵空腸吻合の治癒過程を明らかにする目的で,犬で切断膵空腸吻合部(Roux Y式)においてvertical mattress sutureを応用した端側膵管空腸吻合(VMS群)と嵌入式端々吻合(嵌入群)とを経時的に組織学的癒合過程を比較検討した.VMS群では炎症期が終つた2週で,膵管上皮と空腸粘膜上皮の緊密な連続性が得られ,肉芽の増強は少なく,この期に吻合が完成された状態であつた.嵌入群では1週で空腸端と膵の接合部には炎症細胞の浸潤が著明で,2週では膵断端の肉芽の増殖が強く,1カ月以上で膵断端を空腸粘膜上皮が被い膵管上皮と空腸粘膜上皮の連続性が得られた.
次に臨床例で,1967年より1980年までに膵頭十二指腸切除術を受けた47例を対象に,膵空腸吻合の膵管の開存性について,剖検例(対象4例)の検索,10カ月以上生存例の超音波検査(同13例),PFDテスト(同7例)による検索から評価した.剖検例では全例膵管開存を認め,癌の吻合部再発の1例以外のVMS例(2例)は,他吻合法に比して,線維化の進行を認めなかつた.超音波検査による膵の描写率は11/13(86.4%)で術前に比してVMS例は膵管の縮小を認めたものが多く(4例),口経が拡大したものは無かつた.術前よりPFDテストが45%と低下していた膵癌の1例を除いた4例のVMS例の平均は74.8士2.8%で,他は低値であつた.VMS法を応用した膵管空腸吻合は2週と比較的早く空腸粘膜上皮と膵管上皮との連続性が得られる為に縫合不全が起り難く,又,肉芽の異常増殖が無い為に吻合部の搬痕性狭窄が少なく膵管の開存が得られ易いものと思われる.

キーワード
膵頭十二指腸切除, 膵(管)空腸吻合, Vertical mattress suture, 膵超音波検査, PFD


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