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日外会誌. 83(8): 746-759, 1982


原著

熱傷ストレス下における胃微小循環動態についての実験的研究

杏林大学 医学部第1外科学教室(指導:相馬 智教授)

上田 光久

(昭和57年3月27日受付)

I.内容要旨
ストレス潰瘍の成因として粘膜防御機構,特に粘膜血流量の減少に併う粘膜虚血が注目されているが,その発生機構に関してはいまだ不明な点が多い.そこで発生機構を解明するためにストレスとして体表面積の30%に相当する熱傷を負荷し,胃粘膜血流量の測定,生体胃粘膜血管像および微細血管構築像の検討を行つた.さらに,迷走神経切断術ならびにH2容体拮抗剤のcimetidineを投与しストレス下の胃粘膜血流量に与える影響について併せ検討した.133-Xenon漿膜下注入法による血流測定では,対照群0.49ml/grm/min.対し2時間群0.39ml/grm/min. (p<0.05),5時間群0.28ml/grm/min. (p<0.01) と有意に減少し,24時間後には対照群に近い値にまで回復した.cimetidineの熱傷前投与群では,熱傷後5時間群で0.48ml/grm/min. (p<0.05) と非投与群に比較して有意な増加を認めたが,迷走神経切断術群では,ストレス下において粘膜血流量の維持効果は認められなかつた.急性胃病変の発生率は,おおむね粘膜血流量の減少と相関を示した.胃微細血管構策像は,熱傷後2および5時間群で粘膜下層の動静脈吻合の開大が認められ,生体胃粘膜血管像はこの時期に一致して,粘膜の虚血ならびに,うつ血所見を呈した.同時に施行したhemoglobin染色標本では,粘膜表層で毛細血管内に赤血球の充盈像が認められ,粘膜微小循環動態は,動脈吻合開大に引き続きうつ血状態を呈した.
以上の成績よりストレス下の胃粘膜微小循環動態は,粘膜下層での動静脈吻合開大による虚血と,引き続き起るうつ血という現象が想定された.すなわち,動静脈吻合を介して血液が静脈へ流入する結果,静脈圧は上昇しうつ血状態となり,循環障害を惹起することにより粘膜防御機構は次第に脆弱化すると考えられた.

キーワード
ストレス潰瘍, 粘膜血流量, H2受容体拮抗剤, 動静脈吻合, 粘膜虚血

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