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日外会誌. 83(7): 691-701, 1982


原著

Expanded Polytetrafluoroethylene血管移植における抗血小板剤の影響

岐阜大学 第1外科(指導:稲田 潔教授)

柴田 登

(昭和57年3月17日受付)

I.内容要旨
閉塞性末梢動脈疾患の血行再建に使用する小口径人工血管の開存率向上の補助手段として抗血小板剤の効果を検索した.
抗血小板剤としてdipyridamoleとaspirinを使用し,まずその薬理効果の発現に要する時間を検討した.dipyridamole 100mg/day,aspirin 330mg/dayを雑種成犬に連日経口投与し血小板凝集能を測定したが,凝集能を完全に抑制するのに4日を要することが判明した.ついで上記の量の抗血小板剤を雑種成犬に4日間投与した後,expanded polytetrafluoroethylene(PTFE)血管(fibril length 30μ,内径3mm,長さ4cm)を大腿動脈に移植し,移植後早期のグラフト内面の変化を走査電顕で観察した.投与群では24時間経過後も血小板の粘着凝集はほとんど認められないが,無投与の対照群では移植直後から血小板の活発な粘着凝集が認められ,24時間で血小板を主体とする厚さ30~40μの血栓膜の形成をみた.ついで雑種成犬に4日間の抗血小板剤術前投与の後,内径3mm,長さ4cmと10cmのPTFE血管を大腿動脈に移植し,術後も連日投与し3ヵ月後の開存率を比較した.開存率は4cm群で80%(対照群20%),10cm群で40%(対照群0%)であつた.
投与群の開存例の動脈造影およびグラフト内面の走査電顕検査では吻合部の狭窄はなく宿主側から良好な内皮細胞のはり出しを認めた.また内皮細胞の被覆していない部分でも血栓の付着はなく,グラフト内面が露出したまま開存していた.これに反し無投与で開存した4cm群の例では,グラフト内面にフィブリン網とそれにとりこまれた赤血球からなる血栓を認め,前者と比較して明らかな対照を示していた.以上の結果より,抗血小板剤の併用により末梢小動脈への人工血管移植は可能と思われる.

キーワード
人工血管, 血小板凝集能, 血小板機能抑制剤, 血行再建術, 灌流固定

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