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日外会誌. 83(7): 658-664, 1982


原著

肝組織片移植に関する実験的研究

長崎大学 第2外科

元島 幸一 , 山本 賢輔 , 山口 孝 , 井沢 邦英 , 野田 剛稔 , 角田 司 , 原田 昇 , 伊藤 俊哉 , 土屋 凉一

(昭和57年2月13日受付)

I.内容要旨
成犬に肝組織片移植法を用い,膵管というductal drainage機構を有する膵実質内とductal drainage機構を欠如する脾実質内に同時に自家移植を行い,移植肝組織を機能的,形態的に比較検討した.
方法:雑種成犬20頭を用いた.15頭に肝組織片自家移植を行い,残り5頭を正常control群とした.移植1,2,4ヵ月目に再開腹し,ICG負荷試験を行つた.当検査後膵ならびに脾臓を摘出し,形態学的検査用に供した.
結果:脾内移植1ヵ月目の肝組織は細胞数が少なく検出は容易でなかつた.HE染色で肝細胞の染色性は不良であり,細胞質は白く空胞様にみえたが,核に著変は認めなかつた.脾内移植1ヵ月目の肝細胞も同様な染色性を示した.脾内移植2ヵ月目になるとsinusoidが形成され,これと同時に肝細胞の染色性は良好となつた.PAS染色でもPAS陽性物質がよく染色されるようになつた.しかし,1列の肝細胞索は認められず2列あるいはそれ以上のcell plateであつた.膵内移植2ヵ月目の肝組織は膵小葉間に完全に遊離した状態で生着しており,脾内肝組織に比べ増殖度は良好であつた.膵内肝組織の中央部は正常肝組織の基本構造であるone cell plateであり,その両側は正常よりやや拡張したsinusoidであつた.PAS染色において明らかにone cell plateを示す部位ではPAS陽性物質がよく染色され,脾内肝組織に比べその染色性ははるかに良好であつた.さらに,ICG静注負荷試験で正常犬膵液中にICGは全く検出されないのに対し,肝組織片移植2ヵ月以降になると膵液中にICGが検出され負荷後15分値は有意に上昇し,膵内肝組織が膵管内へ胆汁分泌を行つていることが推察された.
結論:膵内肝組織が移植初期から本来の肝機能ならびに形態を示すことより,肝組織の再構築において胆汁排泄を可能とするductal drainage機構の存在は重要である.

キーワード
肝組織片移植, sinusoidとone cell plate, 脾内肝組織, 膵内肝組織, ductal drainage機構


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