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日外会誌. 83(7): 613-623, 1982


原著

乳癌と血中妊娠関連蛋白(Pregnancy Associated α2-Glycoprotein)
-その臨床的,免疫学的意義-

熊本大学 医学部第1外科(指導:宮内好正教授)

江上 哲弘

(昭和57年2月2日受付)

I.内容要旨
乳腺疾患特に乳癌において妊娠関連蛋白(pregnancy associated α2-glycoprotein,PAG)を定量し,その臨床的意義を検討するとともに,担乳癌生体における本蛋白と非特異免疫についての関連性を検索した.
PAGの定量は妊婦血清を標準に,Laurell電気泳動法により,%にて表示した.各群のPAG値は〔健康女性群〕7.16±9.00%(M.±S.D.),〔良性乳腺腫瘍群〕26.28±16.97%,〔乳癌術前群〕49.03±28.30%,〔乳癌再発群〕62.64±28.16%,〔乳癌非再発群〕29.46±19.09%であり,担乳癌群が他群より有意に高値を示した.本蛋白は乳癌の病期,癌腫の大きさ,再発部位などの臨床的事項とは特別の関連はなく,また根治術後1~4カ月にはほとんどの例で低下し,経過良好例では定量値に大きな変動をみなかつたが,再発をきたした例ではその臨床的所見を得る2~6カ月前より本蛋白の増量をみた.
次に各血清と男子リンパ球混合培養による検討では,男子リンパ球PHA芽球化抑制率は〔健康女性群〕0%,〔良性乳腺腫瘍群〕11.73±6.90%(M.±S.D.),〔乳癌術前群〕21.96±13.90%,〔乳癌再発群〕32.21±6.64%であつた.なおこれらのPAG値は5.75±9.42%,32.21±6.85%,47.38±19.52%,59.82±26.57%であり,被検血清のリンパ球芽球化抑制率とPAG値の間には有意の相関をみた.さらに臨床的に行なつたPHA皮内反応は〔健康女性群〕31.25±8.77mm(M.±S.D.),〔良性乳腺腫瘍群〕35.88±8.32mm,〔乳癌術前群〕27.78±7.86mm,〔乳癌再発群〕23.89±9.53mmであつた.なおこれらのPAG値は3.00±7.94%,25.50±18.45%,60.78±36.82%,65.32±26.35%であり,PHA皮内反応とPAG値の間には有意の負の相関がみられた.
以上よりPAGは乳癌のスクリーニング,予後の判定,再発の早期発見に有用であるとともに,本蛋白の増量は担乳癌生体の非特異免疫能の低下と密接に関連していることが示唆された.

キーワード
乳癌, 妊娠関連蛋白(PAG), Laurell免疫電気泳動法, リンパ球混合培養, PHA皮内反応

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