[書誌情報] [全文PDF] (2041KB) [会員限定・要二段階認証]

日外会誌. 83(5): 425-433, 1982


原著

反回神経麻痺の臨床的並びに実験的研究
第1編 臨床編(その3)反回神経縫合例と反回神経切断放置例の発声能力の比較

広島大学 医学部第2外科学教室
広島大学 医学部第2外科学教室(指導:江崎治夫教授)
広島大学 医学部耳鼻咽喉科学教室(指導:原田康夫教授)

牛尾 浩樹

(昭和57年2月17日受付)

I.内容要旨
従来,反回神経を切断後,端々縫合を行なつても神経過誤再生現象(misdirected regeneration)の為,声帯運動は回復しないとして反回神経端々縫合は放置されてきた.
しかし,我々は声帯運動が回復しなくても反回神経縫合例では反回神経切断放置例に比べ,音声が良いという事に気付いた.
そこで,日本音声言語医学会より考案された発声機能検査装置を用いて,正常の成人男・女30例,一側反回神経切断放置の成人男・女18例,一側反回神経縫合の成人女性6例について発声能力を検査し,比較検討した.検査項目は,発声持続時間,発声時呼気流率,生理的声域,フォルテシモ発声による音声の強さと持続時間である.
その結果,上記の検査項目のいずれをとつても,一側反回神経縫合例は一側反回神経切断放置例に比べ優れており,むしろ正常例に近い値を示していた.
かかる結果の主な原因は,一側反回神経縫合例では,ある程度正常の神経再支配が存在する事より,発声時に患側の声帯筋が健側に一致して収縮出来るが,一側反回神経切断放置例では神経支配が無い為に発声時に患側の声帯筋が全く収縮出来ない為と考えられた.また,すでに報告してきた如く,神経再支配の有無による声帯内筋の萎縮の有無も発声能力の違いの原因に考えられるが,声帯内筋の萎縮の有無は根本的なものではなく,二次的な因子と考えられた.
いずれにしても,一側反回神経縫合例は一側反回神経切断放置例より発声能力が優れており,反回神経端々縫合は意義あるものと考えられる.

キーワード
甲状腺手術, 反回神経縫合, 反回神経麻痺, 発声能力, 発声機能検査


<< 前の論文へ次の論文へ >>

PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。