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日外会誌. 83(2): 239-243, 1982


原著

上腸間膜静脈・右房バイパス術(Mesoatrial shunt)の1症例
-広範囲な下大静脈・肝静脈閉塞症に対する術式の応用-

国立循環器病センター 心臓血管外科

中島 伸之 , 足立 郁夫 , 高原 善治 , 江郷 洋一 , 藤田 毅

(昭和56年10月20日受付)

I.内容要旨
限局性の下大静脈,肝静脈合併閉塞症例に関しては,従来も,種々の手術方法が試みられてきているが,広範囲の閉塞性病変に対しては,その症例自体が稀であることもあり,外科的治療は,極めて困難である.我々は,vasculo-Behcet病に起因する,下大静脈,肝静脈の広範囲閉塞症例に,上腸間膜静脈・右房バイパス術(Mesoatrial shunt)を造設することにより,顕著な症状の改善を認めた1例を経験したので,ここに報告する.
患者は,31歳男子.昭和52年6月頃より,下肢に血栓性静脈炎が出現し,53年4月にVasculo-Behcet病と診断された.この時の静脈造影で,下肢の深部静脈の閉塞とともに,下大静脈の閉塞が認められた.患者は外来にて経過観察を行なっていたが,56年4月に腹水の貯溜と肝機能障害が出現して入院した.造影所見で,下大静脈と肝静脈の閉塞と,門脈系の高度の拡張が認められた.腹水は高度で内科的治療に反応せず,又,食道静脈瘤よりの出血も出現したために,上腸間膜静脈・右房バイパス術を,門脈系の減圧目的で施行した.バイパスには,12mmのdouble velour dacron graftを使用した.
術後,腹水の貯溜は軽減,認められなくなり,腹壁の側副血行路の消退もみとめられた.同時に,両下肢の高度の腫脹も著明に減少した.門脈血を直接右房にバイバスしたことに起因する術後の肝機能の悪化は,明らかでなかつた.患者は,術後順調に経過していたが,ステロイド療法に原因したと思われる敗血症を併発して,術後46日目に死亡した.剖検により,バイパスの開存は確かめられた.

キーワード
上腸間膜静脈・右房バイパス術(Mesoatrial shunt), 下大静脈・肝静脈閉塞, Vasculo-Behcet病


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