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日外会誌. 83(1): 96-112, 1982


原著

異所性自家肝部分移植に関する実験的研究
-切除不能肝門部癌の外科治療を目標として-

東京大学 医学部第1外科学教室(指導教官:草間 悟)

金高 伸也

(昭和56年9月10日受付)

I.内容要旨
肝門部胆管癌はこれを完全に切除することは困難で,その手術成績も不良である.しかし,肝の大部分は健常なことが多いことから,健常な肝左葉を異所的に移植し,移植肝の再生肥大を図つて二期的に腫瘍を含めた肝切除を行う術式の可能性を実験的に検討した.
イヌを用いて自家肝左葉を右側腹溝に移植した.移植肝には動脈血・門脈血いずれも供給し,胆道ドレナージも行つた.移植肝への血液供給路,残存肝葉に対する処置の違いにより6群の実験モデルを作成した.
移植肝の門脈と牌静脈を吻合した3つの実験モデルでは,移植肝に十分な門脈血が供給できないため,いずれの移植肝にも萎縮がみられ,手術成績も不良であつた.
移植肝の門脈と門脈本幹を吻合して移植肝へ十分な門脈血の流入を図つた3つの実験モデルのうち,残存肝の門脈および胆管を結紮した実験モデルでは移植肝の肥大と残存肝の萎縮がみられ,40%肝移植では最高36日の,30%肝移植では最高131日の生存犬が得られた.131日生存犬では著明な残存肝の萎縮と移植肝の肥大がみられ,病理組織学的にも残存肝には肝細胞はほとんどみられず,肥大した移植肝により生命が維持されたと考えられた.しかし,一期的に残存肝を切除した実験モデルでは,移植肝に再生はみられず,手術成績も不良であつた.
以上の結果から,異所性自家肝部分移植においては,移植肝に十分な門脈血を供給する一方,残存肝の門脈を遮断し胆道を閉塞させることにより,移植肝を再生させ,再生肥大した移植肝により生命を維持させることが可能であると考えられた.また,本実験モデルに準じた術式は肝門部胆管癌に対する二期的な切除術式として,臨床応用の可能性があると考えられた.

キーワード
異所性自家肝部分移植, 肝門部胆管癌, 肝再生因子


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