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日外会誌. 83(1): 1-15, 1982


原著

長時間常温下下肢血流遮断解除後にみられるショック時の血液凝固線溶系および呼吸機能の変化についての実験的研究
-とくにARDSとDICとの関連についての考察-

自冶医科大学 一般外科

高橋 正年

(昭和56年7月20日受付)

I.内容要旨
最近Adult Respiratory Distress Syndrome (ARDS) の原因の一つとしてDICが有力視されるようになって来た.そこで,イヌで,両側下肢への血流を常温下で7時間遮断した後,血流を再開すると,重篤なshockと共に,ARDSの初期様変化がみられることより,このモデルを使い,その時の凝固線溶系ならびに呼吸循環系の変化を経時的に追跡し,DICと呼吸不全との相関について検討した.この時, Heparin,Prostaglandin E1 (PGE1) の予防的投与の有効性についても検討した. 血液凝固線溶系の測定項目としてはFibrinogen (Fbg), Fibrinogen/fibrin degradation products (FDP), 血小板 (Plt), Anti-thrombin III (AT-III), Plasminogen (Plg) を取り上げ,測定法も種の特異性を考慮し,イヌの凝固線溶系蛋白に対する抗体を作り,免疫化学的手法を用いて行ない,DICの判定に万全を期した.この結果,血流再開後, Fbg,AT-III,Plg,Pltの消費が進み,FDPが増加し,激しいDICが引き起され,それと共にPaO2が低下し,A-aDO2が増大し,肺内シャント率が上昇し,phyVD/VT比も増加した.肺組織標本では,肺胞,肺胞間質には変化がなく,区域動脈から末梢に至る迄,び漫性に著明なperivascular edemaが見られ,リンパ管も著明に拡張していた.Heparin,PGE1を予防的に投与しておくと,血液凝固線溶系の変化は軽度で,呼吸機能も悪化せず,肺組織像の変化も軽微であった.以上より長時間下肢血行遮断の後,血流を再開すると,激しいShockと共に重篤なDICが起り,いわゆるARDSの初期像に類似した呼吸不全が惹起されることが確かめられた.またHeparin,PGE1の予防的投与がこの変化を防止することを認めた.

キーワード
ARDS, DIC, 血液凝固線溶系, Declamping shock


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