[書誌情報] [全文PDF] (9048KB) [会員限定・要二段階認証][検索結果へ戻る]

日外会誌. 82(11): 1327-1338, 1981


原著

外科的感染症に併発する急性胃粘膜
病変の臨床並びに実験的研究

東京大学 医学部第一外科教室(指導:草間 悟教授)

関川 敬義

(昭和56年6月13日受付)

I.内容要旨
急性腹膜炎や胆道感染症等の外科的感染症時に,いわゆるmultiple organ failure(以下MOFと略す)の一つとして生じ,時には致命的ともなる急性消化管出血の病態及び成因を,臨床的及び実験的に検討した.
(1)1963~1978年の16年間に東京大学第一外科で経験した外科的感染症156例中消化管出血をきたしたのは37例(23.4%)で,ほぼ胃体部を中心とするびらん~Ul-IIの急性多発性病変であり,肝腎肺等の重要臓器障害合併率も40~80%と高く, MOFの様相を呈していた.しかも,消化管出血時のリムルステストの陽性率が87.5%と高く,血中の消長と臨床経過との密接な関連から,エンドトキシン(以下Etと略す)の関与が強く示唆された.(2)ラットにEt8μg/kgとその増感剤である酢酸鉛5mg/匹の静注により,12~24時間後その約40%に急性出血性病変が誘発された.この際,細胞破壊に直接連なるlysosome酵素の動態を, Sup(lysosome酵素溶出画分)/Ppt(非溶出画分)の比を指標に, 1,3,6時間後の胃粘膜で検討した.その結果, 3及び6時間後にこの比が有意(p<0.02)に上昇し,lysosome膜の脆弱化が出血性病変に先立つて生じていることが示唆された.(3)同Et静注ラットの胃粘膜を電顕的に検討したところ, 1時間後という極く早期に,粘膜上皮表層のcapillaryが拡張し,内皮細胞の遍平化,足状突起やmicropinocytotic vessiclesの消失, 一部ではすでに赤血球の漏出などがみられ,微小循環障害の所見が得られた.
以上,臨床例で経験された急性胃粘膜病変と類似の病変がEt投与によりラットに誘発され,その形態学的検討から, Et投与後1時間という早期にまず微小循環障害に陥ることが判明した.更に,この障害によりcapillaryの膜の透過性亢進による間質の浮腫及び細胞内代謝障害を生じ. Energy代謝やpHの低下等も加わって, lysosome膜の脆弱化・細胞の変性壊死をきたし,急性出血性胃粘膜病変が生ずるものと推論された.

キーワード
急性胃粘膜病変, エンドトキシン血症, 微細循環, ライソゾーム酵素, シメチジン

このページのトップへ戻る


PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。