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日外会誌. 82(10): 1255-1267, 1981


原著

膵腸吻合の癒合に関する研究

北海道大学 医学部第1外科(指導:葛西洋一教授)

米川 元樹

(昭和56年4月22日受付)

I.内容要旨
膵腸吻合は膵液の侵襲をうけるため,縫合不全を来たし易い. そのため多くの術式が考案されているが,吻合部の治癒過程に関する基礎的な研究は少ない.そこで,正常膵と障害膵における吻合部の治癒過程を比較検討する目的で, 雑種成犬を用いてadjuvant膵炎と膵管完全結紮の2種類の実験的障害膵を作成し,正常膵および障害膵について膵腸吻合の癒合過程を,微細血管像,組織学的所見,抗張力等の観点から検討し,次の結論を得た.
1. 膵腸吻合後の縫合不全発生頻度は障害膵より正常膵に高い(p<0.05).
2. 膵管と空腸粘膜の密着が不十分なとき,縫合不全の際にmajor leakage となり易い.
3. 膵腸吻合後は,正常膵では吻合部に死腔を形成して滲出液の貯留をみるものがあるが,障害膵では空腸壁と密着して死腔形成がない.
4. 術後7日目では,吻合部の血管新生は障害膵の方が良好で,正常膵では微小循環の形成の遅いものがみられる.しかし,吻合部の抗張力は正常膵の方がより強い(p<0.05).
5. 術後2週から4週では,膵腸吻合部に結合織が増生し,癒合は強固となるが,その程度は正常膵と障害膵とでは差異がない.
6. 膵切離時に出血を制禦する目的で,腸鉗子を使用すると,障害膵では圧挫部に循環障害が残る.
7. 吻合する膵切離面を縫合閉鎖すると,膵切離断端には循環障害が招来する.
以上の結果から,膵腸吻合では膵管と空腸粘膜の吻合を確実に行ない,また,正常膵では特に吻合部に死腔を形成しないようにすることが,吻合部治癒の完成に重要な要素であると考えられた.

キーワード
膵腸吻合, 実験的障害膵, 創傷治癒, 微細血管造影, 抗張力

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