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日外会誌. 82(7): 748-758, 1981


原著

肝再生とアミノ酸代謝に関する研究

北海道大学 医学部第1外科教室(主任:葛西洋一教授)

圓谷 敏彦

(昭和56年1月13日受付)

I.内容要旨
肝広汎切除後のアミノ酸代謝の変動をしることは残存肝の代謝機能の変化をしることであり,術後の肝不全の診断あるいは,肝切除前後の栄養管理上にも重要なことである.
成犬に70%肝切除を行ない,術後の血清遊離アミノ酸が,残存肝の再生,あるいは代謝機能とどのように関連して変化するかを30%肝切除及び肝全摘群を対照として,血清アルブミンや,組織学的変化と共に検索し,次のような結論を得た.
アミノ酸はイオン交換樹脂によるカラムクロマトグラフィにより, Pro, Glu, Ala, Arg, Ser, Gly, His,Thr, Val, Tyr, Leu, Ile, Phe, Lys, Metの15種類のアミノ酸を定量測定した.
1. 肝全摘後にはVal,Ile, Leuの側鎖型アミノ酸を除いて,他のアミノ酸は時間の経過と共に著しく増加する.ただArgのみは肝全摘後一過性に血中から消失する.
2. 30%肝切除後5日までは増加するアミノ酸が多いが, 3週以後はPro,Gluを除いては術前と変化がなくなる.
3. Tyr, Phe, Metの著しい増加とArg,Gluの急激な減少は強度の肝障害を表わす.
4. 70%肝切除直後で組織学的にも中心壊死や出血巣がみとめられ,肝容積の著減している時期には,血清遊離アミノ酸の増加,アミノ酸相互の量的不均衡がみとめられる.
5. 70%肝切除後, 2~ 6週の残存肝の重量と容積が急激に増加する時期には,血清遊離アミノ酸は減少するが,その前半には糖原性アミノ酸が,後半にはケトン原性アミノ酸が減少する.
6. 70%肝切除後8週には,残存肝組織にも,血液生化学所見上にも異常は認められなくなるが,軽度ながらアミノ酸相互の量的な不均衡がみとめられる.肝切除後12週で血清遊離アミノ酸も術前の安定した状態に回復する.
以上のことから,肝切除後の再生過程における血清遊離アミノ酸は残存肝の機能障害,あるいは機能する肝容積の減少及び再生現象に対応して変動し,肝再生が完了するまでは残存肝の代謝機能は不安定な状態にあることがわかる.

キーワード
アミノ酸, アルブミン, 肝切除, 肝再生, 肝全摘


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