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日外会誌. 82(6): 647-657, 1981


原著

遠位脾腎静脈吻合術の胃壁血行動態における有効性
-急性門脈圧亢進状態下での実験的研究-

兵庫医科大学 第2外科教室(指導:伊藤信義教授)

芦田 寛

(昭和56年1月22日受付)

I.内容要旨
自験例での食道静脈瘤術後の再出血の原因は,必ずしも食道静脈瘤再発だけとは限らず,出血性胃炎や胃潰瘍よりの出血を特に直達手術例に認めた. また門脈圧亢進症に胃壁血行障害の存在は知られており,かかる病態が食道静脈瘤術後にいかに変化するのかは興味がある.組織離断と血行廓清を術式の基本とする直達手術においては,胃壁血行障害という病態の改善が望めるとは考えられず,食道下部・胃上部領域を選択的に減圧する選択的shunt手術である遠位脾腎静脈吻合術の方が,かかる病態を解除できうる可能性はあると考える.
今回,雑種成犬に血行廓清を付加した遠位脾腎静脈吻合を作製し,門脈狭窄による急性の門脈圧亢進状態下における胃壁血行動態の変動を,無処置犬と比較し,同吻合の胃壁血行動態における有効性を検討した.
結論:① 胃壁組織血流量は無処置犬では75.5%と著明に低下したが,遠位脾腎静脈吻合犬では22.5%の減少と有意に少なかつた.② 短胃静脈圧は無処置犬では門脈圧と同程度に上昇したが,遠位腎脾静脈吻合犬ではほとんど上昇しなかつた.③ 胃壁組織ガス分圧は無処置犬では酸素分圧 (PtO2)の高度な低下を認めたが,遠位脾腎静脈吻合犬では有意に軽度の低下であつた. ④ 胃粘膜所見は無処置犬は発赤, 浮腫を呈したが,遠位脾腎静脈吻合犬では同様の所見は認めず,組織学的にもうつ血所見は認めなかつ た.
以上より, 急性門脈圧亢進状態下において遠位脾腎静脈吻合は有効に作用し,胃壁血行を門脈系より十 分に分離でき,胃壁血行動態の障害は軽微であつた.

キーワード
遠位脾腎静脈吻合術, 胃壁血行動態, 急性門脈圧亢進状態

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