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日外会誌. 82(4): 355-367, 1981


原著

胃癌患者の非特異的細胞性免疫能に関する臨床的研究
-とくに手術後の変動について-

三重大学 医学部第2外科

吉野 純爾

(昭和55年10月9日受付)

I.内容要旨
胃良性疾患を対照として,胃癌患者における術前,術後の非特異的細胞性免疫能の変動に如何なる因子が関与しているかを検討した.対象は胃良性疾患21例,うち手術例17例と冑癌患者111例,うち手術例82例であり,術後高カロリー輸液施行例は除いた.術後の癌化学療法は深達度m にとどまる例を除き,術後第10~16病日に関始した.非特異的細胞性免疫能の諸指標としてリンパ球数,PHA幼若化率, 単核細胞中に占める単球百分率とEnロゼット百分率, リンパ球数中に占めるT細胞百分率, T細胞数, PPD皮内反応およびPHA皮内反応を術前, 術後経時的に測定した結果, 1) T細胞百分率は胃癌の進展あるいは手術侵襲により変化せず,健康成人群にほぼ等しい77~80%を示した.2) 他のパラメーターは胃癌の進行度に従い低下傾向を示したが,胃良性疾患群との比較において推計学的有意差を示したものは再発・増悪群のリンパ球数とPHA幼若化率であり, PPD皮内反応はstage IV群と再発,増悪群で有意差を示した.パラメーターにみられたこの低下傾向と有意差は術前の体重減少と血清総蛋白でも同様であり, 胃癌患者の非特異的細胞性免疫能には担癌と低栄養の両者が関与していることが示唆された.3) 細胞性免疫能をあらわす諸指標が術後2週で著しい低下を示し,術後4週より2カ月にかけて術前値へ回復する傾向は, 胃良性疾患と胃癌の各stage群との間に差を認めなかつた.この間の変動には手術侵襲,合併症及び低栄養が閲与しており,癌腫切除の有無や術後の癌化学療法は影孵を及ぼさないと考えられた.4) 術後2カ月以降ではstageIII群とIV群において再発・増悪例の出現する時期に一致して,リンパ球数, PHA幼若化率及びEn百分率が低下した.また,個々の胃癌症例においてはEn百分率の低下により臨床的な再発・増悪の予知が可能であった.

キーワード
胃癌, 非特異的細胞性免疫能, 癌化学療法

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