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日外会誌. 82(4): 342-354, 1981


原著

術後深部静脈血栓症に関する研究
-とくに危除因子について-

岐阜大学 第1外科(指導: 稲田潔教授)

林 勝知

(昭和55年11月10日受付)

I.内容要旨
本邦における術後深部静脈血栓症(DVT) の危険因子を明らかにするため,一般外科235例,婦人科手術65例,総計300症例を対象に, 125I-fibrinogen uptake testを施行し,同時に血液凝固線溶系の検索を行つた.あわせて脂質および一般的な危険因子として,年齢,身長、体重,肥満,喫煙,糖尿病の合併,下腿静脈瘤の存在,深部静脈血栓症の既往,手術時間,手術中の出血量などについて検討した.
1) 年齢,身長,体重,喫煙については, DVT陽性群と陰性群の間にとくに差を認めなかつたが,加齢とともにDVT陽性率か増加し,肥満,糖尿病の合併は, DVT陽性群で陰性群に比べ有意に多い傾向を認めた.下腿静脈瘤の存在,深部静脈血栓症の既往は両群ともに少なかつた.手術時間ではDVT陽性群でやや長い傾向を認めたが,手術中の出血量では両群間に大差を認めなかつた.また疾患別では悪性疾患においてDVT発生率が高かつた.
2) 脂質の検索では, DVT腸性群で陰性群に比べ遊離脂酸 (FFA) の有意の上昇を認めたが,β-リポプロテイン,コレステロール,トリグリセライドは両群間でとくに差を認めなかつた.
3) 血液疑固線溶系検査では,(a) 術後の線溶能低下が高度の群では,術前凝固能の亢進しているもの,術前凝固能が正常でも術後凝固能の亢進するもの,(b) 術後の線溶能低下が軽度の群では,術前後とも凝固能が亢進しているもので,本症発生の危険性が高いのを認めた.
以上の結果より,本邦における術後深部静脈血栓症の危険因子は,一般的なものとして加齢,肥満,糖尿病の合併,悪性疾患および手術時間の延長が関係し,脂質ではFFAが重要と考えられるが,術前後にわたる凝固能亢進および術前後の高度の線溶能低下がもつとも大きな危険因子と考えられた.

キーワード
術後深部静脈血栓症, 125I-fibrinogen uptake test, 凝固能亢進, fibrinolytic shut down


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