[書誌情報] [全文PDF] (9299KB) [会員限定・要二段階認証]

日外会誌. 82(2): 149-161, 1981


原著

ATP-MgCl2による虚血性急性肝不全の治療

千葉大学 医学部第2外科(主任:佐藤博教授)

大川 昌権

(昭和55年7月19日受付)

I.内容要旨
< 目的>肝阻血によつて障害された肝細胞機能の回復にATP-MgCl2の投与が有効であるか否か, もし有効であるならば如何なる機序によるものであるかを検討した.
<実験方法>雑種成犬を用い,脾静脈と大腿静脈との間に一時的な外shunt を作成した後, 60分間の肝の完全阻血を行つた.血流再開後投与群にはATP-MgCl2を各々50μmoles/kg 投与した.肝阻血後の生存率及び血流再開後90分における血清transaminase 値, lactate dehydrogenase (LDH)値, Alkaline phosphatase(A1-P値), ICG test,細網内皮系(RES)機能,肝細胞内ATP level,肝組織水分及び電解含有量を測定しこれらのparameterに及ぼす影響を非投与群との間で検討した.
<結果> 実験終了時より5日以上生存したものを生存例とした生存率の検討では, ATP-MgCl2投与群では100%と非投与群の40%に比し有意(p<0.01)に生存率の向上が得られた.血流再開後90分における肝機能の面でも, ICG投与後20分の血中濃度は41±4% (mean±S.E)から25±4% (p<0.02)に, RES機能の指標となるlipid emulsionの血中半減期(t/2)も36.6±3.5分から15.9±0.9分(p<0.001)にといづれもATP-MgCl2投与群で有意な改善が認められた.一方,肝阻血による肝細胞の代謝面の変化では,肝細胞内ATP levelは1.45±0.07 μmoles/g tissueと激減していたが投与群では1.95±0.09μmoles/g tissueと有意に回復していた(p<0.01).更に60分の阻血により肝組織のNa+濃度は増加し同時に水分含有量の増加も認められ明らかにcell swellingの発生を示していたがATP-MgCl2投与群ではこれらの変化をほぼ正常化させた.
<結語>60分の肝の完全阻血後のATP-MgCl2の投与は生存率及び各種肝機能を改善させ肝細胞機能の回復に有効であることが判明した. 又このATP-Mgl2投与の有効性の機序としては,阻血によつて減少した肝細胞内ATP levelを回復させ,その結果低下していた細胞機能を賦活し血流再開後生ずるcell swellingを予防或いは軽減することによるものであると考えられた.

キーワード
肝阻血, ATP-MgCl2, RES機能, 肝細胞内ATP, cell swelling


<< 前の論文へ次の論文へ >>

PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。