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日外会誌. 82(1): 75-85, 1981


原著

摘出肝組織片の灌流保存の研究

北海道大学 医学部第1外科教室(指導:葛西洋一教授)

坂本 仁

(昭和55年5月20日受付)

I.内容要旨
摘出肝組織片が肝補助装置の一部として利用されることを目的として,肝組織片と,Perfluorochemical (FC),Waymouth (WM) 組織培養液を用いた肝組織片潅流装置を考案し,摘出肝組織片の潅流保存の研究を行なつた.
雑種成犬10頭を用い,4℃に冷却酸素化した10%FC液あるいはFC液とWM液との混合液にて肝をwash outした後肝を摘出し,厚さ1mmの肝組織片を作成した.Wash out と同様の液を用いて37℃恒温振盪槽内にて,非循環式10例,循環式4例について24時間にわたり肝組織片の潅流を行なつた.定期的な塩化アンモニウム負荷のもと,尿素生成量,生化学的検査値,グルコース値,乳酸値,焦性ブドウ酸値を測定した.さらに,遊離アミノ酸値の変動,ミトコンドリア機能,組織学的所見について検討を加えた.
潅流液はpH7.7~6.9,PO2 376mmHg以上,PCO2 28mmHg以下,osmolarityは300~400mosm/lを維持した.尿素生成量は24時間で最高4.1mg/g・肝を得ることができ,循環式FC とWM 液混合液による潅流の場合が良好であつた. GOT,GPTは72mKU/g・肝以下であつた.グルコース値はほぼ一定に維持され,乳酸値,焦性ブドウ酸値は上昇を続けた.遊離アミノ酸値の測定の結果,Histidine,Arginine などの著明な減少,側鎖型アミノ酸値の維持などから肝組織片によるアミノ酸代謝能は充分であると思われた.ミトコンドリア機能,組織所見からも肝組織片の24時間にわたる機能維持がはたされていたものと考えられた.とくに,循環式潅流装置によるFCとWM混合液による潅流の場合が最も良好な結果を得た.
以上より,摘出肝組織片,Perfluorochemical,Waymouth組織培養液を用いた潅流装置により,肝組織片の24時間にわたる機能保存性が認められた.このことから本装置には肝補助装置としての可能性があることが示唆された.

キーワード
肝組織片, Perfluorochemical, Waymouth組織培養液, 尿素生成, 肝補助装置


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