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日外会誌. 82(1): 22-33, 1981


原著

反回神経麻痺の臨床的並びに実験的研究
第1編臨床編 (その1) 甲状腺手術と反回神経麻痺
-特に神経縫合の意義について-

広島大学 医学部第2外科学教室(指導:江崎治夫教授)
広島大学 医学部耳鼻咽喉科学教室(指導:原田康夫教授)

牛尾 浩樹

(昭和55年6月12日受付)

I.内容要旨
過去6年間,当第2外科学教室で甲状腺手術を受けた患者557例のうち, 術前後に間接喉頭鏡検査を受けた症冽は547例であつた.
この547例について, 術前後の反回神経麻痺の発生率,反回神経温存例における反回神経麻痺の回復時期,及び7例の反回神経端々縫合例の予後について調査,観察したところ,以下のような結果を得た.
1)術前より反回神経麻痺が認められたものは62例(11.3%)であつた.そのうち,60例は悪性腫瘍によるもので,2例が良性腫瘤によるものであつた.
2)術前,術後に全く反回神経麻痺が認められなかつたものは416例(76.1%)であつた.
3)術後,新しく反回神経麻痺をきたしたものは69例(12.6%)であつた.そのうち,反回神経を湿存したにもかかわらず術後に,麻痺を来たしたものは41例(7.5%)であつた.残り28例(5.1%)は,乳頭腺癌の浸潤により反回神経を切断した.
4)反回神経を温存したにもかかわらず,術後麻痺をきたした41例のうち,大部分の症例は,6カ月以内に麻痺は回復した.しかし,さらに7カ月から10カ月迄経過して回復する例もあつた.
5)反回神経を切断した28例のうち, 7例に反回神経端々縫合を行なつた.これら神経縫合例の結果は,ほぼ正常機能に回復した症例は1例のみで,他の6例は不充分であつた.しかし,患側声帯の萎縮は認められず,発声時に両声帯間の間隙は少なく,嗄声は正常近く迄改善していた.一方,反回神経を切断放置した患側声帯は,萎縮を認め,発声時に両声帯間の間隙を認め嗄声が続いていた.以上の事より,反回神経縫合は, 声帯機能を回復させなくても,患側声帯内筋の萎縮を予防し,その結果として嗄声を改善する可能性がある.従つて,反回神経切断時には,積極的に神経縫合を試みるべきであると考える.

キーワード
反回神経麻痺, 反回神経縫合, 神経過誤再生現象, 声帯内筋萎縮

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