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日外会誌. 81(11): 1406-1411, 1980


原著

先天性心疾患に伴なう大静脈の異常
-特に下大静脈の異常症例を中心に-

1) 三重大学 胸部外科
2) 三重大学 放射線科

大井 勉1) , 森本 保1) , 岡田 行功1) , 水谷 哲夫1) , 矢田 公1) , 湯浅 浩1) , 草川 実1) , 山口 信夫2)

(昭和55年1月18日受付)

I.内容要旨
大静脈の奇形は心臓および腹腔内臓器の奇形を合併することが多いが,最終的に静脈血が右心房に還流している限りにおいては臨床的に問題になることは少ないしかし心臓外科手術が広く行われる様になつた今日では,大静脈の還流異常は血流遮断に伴う手術手技上の重要な問題の一つである.われわれは昭和41年から昭和53年までの13年間に24例の大静脈の異常症例を経験したので, 下大静脈の異常症例を中心に,その形態,合併奇形,手術手技上の問題点につき考察を加え報告した.症例は24症例で,上大静脈の異常は10例であり,すべて左上大静脈遺残で冠状静脈洞に接続していた.合併心奇形はVSD を主とする非チアノーゼ性心疾患が多く見られ, 心臓または内臓の位置異常が合併した症例はなかつた. これら単純な左上大静脈遺残症例では,体外循環下の開心術時には左上大静脈を単純に遮断するのみにて異常を認めなかつた.下大静脈の異常は14例で,奇静脈接続7例,半奇静脈接続2例,左下大静脈4例,二重下大静脈1例であった.合併心奇形はチアノーゼを有する複雑心奇形が14例中9例と多く見られた.心臓または内臓の位置異常は8例(57%)に見られ,そのうち無脾症2例, 多脾症3例が認められた.又大静脈の異常に伴う外科治療上の問題点については,大静脈の異常そのものは直接外科治療の対象となることは少ないが,人工心肺を用いた体外循環により合併心奇形の手術を行う際には,脱血カニューレの挿入方法にエ夫を要することがある. したがつて,先づ大静脈の奇形の存在を術前に診断することが重要であり, 右心カテーテルは下肢の静脈より行うことが必要で,カテーテルの挿入に際しては透視によりその走行を充分に確認し,異常があれば造影を行い,診断することが必要であると考えられた.

キーワード
下大静脈の異常, 左上大静脈遺残, 無脾症


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