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日外会誌. 81(10): 1365-1370, 1980


原著

原発性肝癌を合併した肝部下大静脈膜様閉塞症の1手術例

兵庫医科大学 第1外科

鈴木 文也 , 岡本 英三 , 京 明雄 , 豊坂 昭弘 , 清水 幸宏

(昭和54年12月10日受付)

I.内容要旨
症例は36歳の男性.某施設でBudd-Chiari症候群の診断のもとに,人工血管による下大静脈・右心房バイパス術を受け,その術中に肝右葉の原発性肝癌を発見され,手術のため当科に紹介入院した.当科入院時AFPは503ng/ml と高値を示し,全身CTスキャン, 腹腔動脈造影で肝右葉に直径約5cm の腫瘍陰影を認めた.バイパス手術後も下腿静脈の怒張が持続するため,右肘静脈及び右大伏在静脈より同時下大静脈造影を行なつた.下大静脈は横隔膜の高さの部位で厚さ約1mm の膜様閉塞がみられ, 人工血管は吻合部で完全に閉塞していた.圧測定では右心房中間圧4mmHg,下大静脈中間圧12mmHg と両者間に8mmHgの圧差がみられた. このためこれらに対して同時に根治術を行なう事とし, 手術は胸骨正中切開及び上腹部正中切開の開胸,開腹で行なった.下大静脈膜様閉塞は経右心房的用指穿破術を行ない)肝癌は楔状切除で摘出した.術後の下大静脈造影では閉塞部はほぼ完全に除去されており,右心房, 下大静脈の圧差は2mmHgに減少した.AFPは12ng/ml と正常になつた.摘出した肝癌は組織学的にはclearcell typeであり,非癌部はうつ血性肝硬変像を呈していた.
本邦における下大静脈膜様閉塞症に原発性肝癌を合併した症例は現在までに27例みられるが,いずれも剖検例であり,今回の如く同時に根治術を行なつた報告例は未だない.
下大静脈の閉塞を伴なうBudd-Chiari症候群は肝癌を合併しやすいため診断時には下大静脈造影に,肝動脈造影,全身CT スキャンも合わせ行なう必要がある.

キーワード
肝部下大静脈膜様閉塞症, Budd-Chiari症候群, 原発性肝癌


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