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日外会誌. 81(7): 688-693, 1980


原著

重複胃癌を合併した多発性胃粘膜下囊腫の2例について

京都府立医科大学 第二外科

井口 公雄 , 松本 仁志 , 石橋 治昭 , 桐山 藤重郎 , 藤森 千尋 , 山藤 琢爾 , 柴田 純祐 , 田中 承男 , 小玉 正智 , 橋本 勇

(昭和54年9月20日受付)

I.内容要旨
多発性胃粘膜下嚢腫は,胃良性腫瘍の中でも,稀な疾患である.最近,我々は, 71歳と70歳の男性に本症と,重複癌を合併した2症例を経験した.前者は, Borrmann IIIとIIc+IIa 胃癌を,後者は, I型とIIa 型胃癌を合併しており,多発性胃粘膜下嚢腫は,いずれの症例においても,胃体部前後壁に認められ,術前診断は,胃透視・内視鏡により, 山田I~II型のポリープと診断された.確定診断は,切除標本割面および組織所見によりなされた. このように, 本症は, 稀なうえに, 術前診断が困難なため,十分,留意を要する疾患と考えられる.本症は,粘膜下層に多発し,一層の円柱ないし立方上皮により,被覆された嚢腫であり,周囲には平滑筋線維の増生がみられ, Palmerによれば,Enterogenous cyst として,分類される.本症の成因には大きく二つの意見があり,胃炎等が原因となって発生するとする後天性説と,腺組織が,先天的に粘膜下に迷入して,分化するとする先天性説であるが,我々は,襄腫壁を構成する細胞の中に,主細胞. 壁細胞が認められることより,先天性疾患と考えている.また,本症には癌を合併することが多く,胃癌との関連性が議論されているが,我々の経験した症例でも, 50%に重複胃癌を合併しており,本症と胃癌の密接な関連が示唆される.しかし, 本症自身が, 前癌病変であるか否かについては,異論が多い.しかし,我々の経験した2例のいずれも,嚢腫壁を構成する細胞に, 異型性を認め,粘膜筋板を破壊して,上皮へと移行している部分が認められることは,本症自身が,癌化し,上皮ヘと波及したことが,十分,考えられる所見であると思われた.以上, 多発性胃粘膜下囊腫は,胃腺組織が,迷入し,分化増殖したものであり,前癌病変の一つと推察しうる組織所見を報告した.

キーワード
多発性胃粘膜下囊腫胃癌

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