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日外会誌. 81(6): 481-493, 1980


原著

選択的近位迷走神経切離術後の胃粘膜変化に関する実験的研究

和歌山県立医科大学 消化器外科学教室(指導:勝見正治教授)
和歌山県立医科大学 第2解剖学教室(指導:藤江君夫教授)

近藤 孝

(昭和54年8月20日受付)

I.内容要旨
選択的近位迷走神経切離術(選近迷切)における迷走神経・血管の切離や幽門形成術(幽成) 付加が胃粘膜に及ぼす影響を検討すべく,10kg前後の雑種成犬を使用して次の実験を行つた.
実験犬を対照群,左胃動脈結紮群, 選近迷切単独群,選近迷切兼幽成群の4群に分け,各群の主細胞,壁細胞胃粘膜固有層の組織学的観察と,胃表在上皮細胞PAS陽性物質の顕微濃度計による測定, 及びIndomethacin 1mg/kg/日14日間経口投与による胃潰瘍誘発実験を行つた.
迷走神経切離により主細胞内にペプシノーゲンを示す分泌顆粒の著しい増加がみられ, 主細胞よりのペプシノーゲン放出が抑制される.又壁細胞においても細胞内にvesicleが増加し,酸分泌機能低下がみられる.
胃粘膜の防御因子の1つと考えられる表在上皮細胞のPAS陽性物質は,迷切のみによる影響はみられないものの, 血管の切離や結紮により減少を示し,幽成付加により著しい減少を示す.
胃粘膜固有層の障害は幽成付加により増強される. Indomethacin負荷による胃潰瘍誘発実験においても同様に,対照群,選近迷切単独群には胃潰瘍の発生はみられないが,選近迷切兼幽成群に高率に胃潰瘍の発生がみられ,幽成付加が胃粘膜障害を強める.
これらの結果は選近迷切に幽成を付加すると十二指腸液の胃内逆流により防御因子の低下をきたし,胃粘膜障害が増強されることを示唆する.それゆえ十二指腸潰瘍に対して選近迷切を行う場合は術後胃潰瘍発生防止のためにも,幽成を付加しない選近迷切単独が望ましい.

キーワード
選択的近位述走神経切離術, PAS陽性物質, 主細胞, 壁細胞, 術後胃潰瘍発生


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